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戦国異伝

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第八十三話 明智の覚悟その二


「人を攻めるのですな」
「そうします。明智殿の言葉通り」
「では今から」
「はい、人を攻めます」
 まさにだ。それをだというのだ。城ではなくだ。
「そうして戦をせずに攻めますので」
「そうされますか。では」
「それで宜しいですか」
「それがしはそれでいいと思います」
 丹羽、そして明智を見て細川は答えた。それでいいとだ。
 その次に和田もだ。こう言うのだった。
「それがしもそれでいいかと」
「では」
「さて。これはまたです」
「かなりのことになっておりますな」
 これまで話を聞いていた武田、そして一色の諸将もだ。丹羽達のこれまでの話を聞いてまずはそれぞれこうざわめきの様に声をあげた。そうしてだ。
 次にだ。彼等はこう言ったのである。
「織田様に従うと。我等は決めましたが」
「しかし。城ではなく人を攻めるとは」
「まあこれは随分です」
「凄い話ですな」
「その孫子ですが」
 丹羽がだ。そのざわめきだつ武田や一色の者達に話す。あくまで穏やかに。
「城を攻めるのは下計と言っていますな」
「はい、そうあります」
「確かに」
「そうです。確かに城を攻めてもです」
 それは下計だと。丹羽は言っていく。では上計は何かというと。
「人。人の心を攻めることはです」
「それが上計ですな」
「まさに」
「そうです。波多野の心をです」
 それを攻めるというのだ。この戦ではだ。
「兵や弓矢を使わずとも戦なのですから」
「弓矢で射るのではなく心を脅かす」
「そうした戦ですか」
「してです。降らせましょう」
 その降らせる相手についても最早言うまでもなかった。
 その相手のことを念頭に置きつつだ。言う丹羽であった。
「そうすればよいのです」
「だからこそです」
 明智がここでまた述べる。
「それがしもその為にあえてです」
「正直驚いております」
 丹羽がまた明智に述べる。
「思い切ったことをされますな」
「ですがそうでもせねばです」
「戦をせずに済ますことはできませんな」
「そう思いましたので」
 明智は淡々と。だが着実といった感じで丹羽達に答えていく。80
「ですから」
「戦を避ける為にあえてですか」
「そうです。浅慮だと思われるでしょうか」
「そうは思いませぬ」
 丹羽は明智のその言葉は否定した。それはだ。
 だがそれと共にだ。彼はこうも言うのだった。
「ですが。少なくともそれがしにはできませぬな」
「ですか」
「ご自身を。そこまで殺されるとは」
「しかしそれで戦をせずに済むのならです」
「よいですか」
「多くの兵や民の命に比べれば」
 やはり明智の言葉には覚悟があった。一見すれば教養があり落ち着いている感じだがだ。その奥にはそれがありだ。そのうえで語っているのだ。
 そしてその明智がだ。また言った。
「些細なことであります」
「ですか」
「はい、では」
「それがしは決めました」
 丹羽は明智の話を聞き終えてからこうも述べた。
「このことを。ではです」
「それがし達もですな」
 明智だけではなかった。他の幕臣達もだった。 
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