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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その十一


「まあ。趨勢は決するがのう」
「しかし三好殿は諦めませぬか」
「それでも」
「もう一つ戦がある」
 今行われている戦とは別にだ。それがあるというのだ。
「そしてそこで、じゃ」
「真の決着がつきますか」
「そうなるというのですな」
「そうじゃ。次の戦じゃ」
 先の先を読んでいた。まさにだ。
 松永はそうしてだ。己の家臣達に述べたのだった。
「三好殿は完全に決まる」
「左様ですか。そうなりますか」
「そこからですか」
「しかし三好殿との戦が完全に終われば織田殿は天下に不動の勢力となる」
「尾張や美濃に加えて近畿に播磨等に加え」
「そして四国にもなるとですな」
「最早織田殿に単独で相手になる勢力は表にはおりませぬな」
 家臣達も言っていく。しかしだった。
 松永は家臣達の織田家にそれぞれだけで当たれる相手がなくなるという言葉にはだ。
 少し懐疑的な顔を見せてだ。こう言ったのである。
「本願寺じゃな」
「あの寺ですか」
「あそこがありますか」
「うむ。本願寺は加賀を持ち越前や近畿を中心に大きな力を持っている」
 本願寺の勢力の強さをだ。松永は指摘したのだった。
「そして一度門徒達に声をかけるとじゃ」
「それこそ無数の者が立ち上がりますな」
「それだけで」
「そうじゃ。十万、いや二十万は越えるか」
 途方もない数字が出された。それだけの数字が。
「それだけの数なら例え三好殿に勝った織田殿でもじゃ」
「勝つことは容易ではありませぬか」
「下手をすれば敗れますな」
「織田殿の方が」
「そうなることも考えられる」
 まさにそうだというのだ。織田が本願寺に敗れるかも知れないというのだ。
「何しろ数が違う。それにじゃ」
「それに、ですか」
「まだありますか」
「本願寺の門徒達はどの国にもおる」
 このことも大事であった。松永が今言うことの中では。
「そして何時出てくるかわからぬ」
「神出鬼没ですか」
「そういうことですな」
「そうじゃ。織田殿は本願寺と争えば神出鬼没の相手と戦をせねばならんのじゃ」
「そこが大名を相手にするのとは違いますか」
「それもかなり」
「うむ、違う」
 まさにそうだというのだ。違うというのだ。
「そこが問題なのじゃ」
「ううむ。大名だけではありませぬか」
「それも問題ですか」
「大名だけなら天下を手に入れるのも治めるのも楽じゃ」
 松永はいぶかしむ己の家臣達に述べた。
「数多くの大名がおってもじゃ」
「しかし実際はそうではない」
「だからですか」
「天下は手に入れることも治めることも厄介である」
「大名だけが天下にいるのではないからこそ」
「そうじゃ。まず国人達がおる」
 松永は彼等のことも話に出したのだった。
「大和にしろそうじゃったな」
「はい、かなり手を焼きました」
「結局大和の国人は全て織田殿につきました」
「そうした意味で我等と同じ釜を食う仲になりましたが」
「それでもです」 
 同じ釜で飯を食ってもだ。仲間とは限らないというのだ。
 そうした意味で松永と彼の家臣達は大和の国人達とまだ敵同士だった。少なくともあちらはそう思っていた。そうした険悪な仲のままであるのだ。
 その国人達についてだ。家臣達もそれぞれ話す。
「あの者達はその地にいて独自の力を持っております」
「天下は望まないにしろそれぞれ中々の力を持っている」
「そしてその地に確かな力を維持している」
「まずはその国人達ですか」
「この者達を敵に回すとその地を治めにくくなる」
 松永は国人達の存在をそうしたものだと看破してみせた。 
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