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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その十


「殿はどうか。あの御仁にはのめり込まないで下さい」
「あの御仁は青天の白日ならば尚更です」
「我等は闇なのですから」
「見てはなりませぬ」
「闇の者は大輪を見てはならぬのかのう」
 家臣達の言葉を聞いてもだ。それでもだった。
 松永は空を見上げて言うのだった。織田家の色のその空をだ。
 そしてそこにある大輪を見る。それこそがだった。
「よいと思うのじゃが」
「ですからそれはです」
「そうしたことは仰らぬことです」
「お願いします」
「一族のう」
 松永はその一族についてさらにぼやくのだった。
「確かにわしは一族の者じゃが」
「何かご不満があってもです」
「まことにくれぐれもです」
「お口には出さないで下さい」
「宜しいですな」
「口に出さねばよい、か」
 松永は己の家臣達の言葉からまた述べた。
「そういうことか」
「人の考えまでどうこうできるものではないでしょう」
「殿のお考えはあらためて頂きたいです」
「しかしそれをされるのはあくまで殿」
「殿なのですから」
「わし故にか」
 他ならぬ彼が考えてそうしてどうするかということだった。このことを受けてだ。
 松永は一旦目を閉じた。そしてだった。
 また目を開いてだ。こう言ったのだった。
「わしは言わぬぞ」
「そうされますか」
「決して」
「御言葉には出されませんか」
「そうすればよいのならな」
 そうすると簡単に言ってだ。松永はこのことについて口を閉じた。そうしたのだった。
「そうする」
「しかし。それでもです」
「織田殿をですか」
「殿は」
「言わぬことにした」
 思わせぶりな笑みを浮かべてだ。松永は彼等の言葉に返した。彼等の言葉をそのまま利用してそうしてだった。こう言ってみせたのである。
 そしてそのうえでだ。松永は己の家臣達、その彼等に述べたのだった。
「ではよいか」
「はい、それではですか」
「今からですな」
「河内に入る」
「そうされますか」
「三好殿は終わりじゃ」
 三好についてはあっさりと言える松永だった。家臣達も応えられる。
 そしてそのうえでだ。彼等はこう己の主に述べたのである。
「では、ですな」
「その三好殿に止めを刺す」
「それが今の戦ですな」
「我等が加わる」
「いや、趨勢はつくがじゃ」
 戦のそれはつく。しかしだというのだ。
「それでも三好殿はまだ滅びぬ」
「まだ、ですか」
「戦は続くのですか」
「織田殿がこの戦に勝っても」
「三好殿は近畿からは追い出される」
 そこからはだった。だが、だった。
「しかし三好殿にはまだ四国があるではないか」
「確かに。三好殿はまだ四国に国がありますな」
「讃岐に阿波」
「そして淡路も」
 この島もだ。三好は持っていた。松永が今言うのはこのことだった。
「確かに近畿は失い織田殿は天下に揺ぎ無い勢力を築く」
「それは確かになってもですか」
「三好殿はまだ滅びはしない」
「この戦では」
「うむ、それはまだ先じゃ」
 松永は織田家と三好家の双方を冷静に見ていた。そのうえでの言葉だった。 
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