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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その十二


「その者達がおり海にもおるな」
「ああ、九鬼殿の様にですな」
「海で生きている豪族が」
「半ば海賊になっている者達もおる」
 海についてもだった。松永は知っていた。彼が見ているものは実に多い。
「陸だけではないのじゃ」
「ううむ、海もですか」
「海もある」
「そこも治めねばなりませぬか」
「そうじゃ。まあ海もそうした意味で国人と変わらん」
 陸に生きているか海に生きているかという違いだけだというのだ。国人達と海に生きる者達はそこに古来より生きているという意味でだ。同じだというのだ。
「土着の勢力がまずある。そしてじゃ」
「そして、ですか」
「次に来るのは」
「都じゃ」
 その地からの話だった。
「都のことはわかるのう」
「朝廷に幕府」
「そうした存在ですか」
「そうじゃ。帝を忘れて国は治められぬ」
 この国の主、その存在もあった。
「幕府もあるしのう。都は特に厄介じゃ」
「ですな。そして忍もいますし」
「して寺社」
「そこですか」
「特に本願寺じゃ。本願寺とはじゃ」
 本願寺については難しい顔になりだ。松永は言うのだった。
「わしも揉めたくはない」
「はい。長老もそう仰っていましたな」
「出来るなら本願寺とは争いたくないと」
「我等のことを知られなくないと」
「顕如殿じゃったな」
 本願寺の法主だ。石山にいてそこで本願寺の絶対者として君臨している。一向宗、即ち浄土真宗を開いた親鸞の血を受け継いでいる。しかし彼はそれだけではなかった。
「あの御仁は織田殿にも対することができるだけの方ぞ」
「その織田殿とですか」
「対することができると」
「おそらくもっとも織田殿に近い方じゃ」
 松永は顕如をここまで言う。
「その御仁が織田殿にどう向かうかじゃ」
「それにより本願寺も動きますか」
「今後は」
「さて、どうなるかのう」
 未来はわからない。そうした口調になっていた。
「まことに。とにかく天下には多くの者がおる」
「その全てを治めねばならぬ」
「天下とはまことに厄介なものですな」
「実に」
「そうじゃ。言うならばこれ以上はなく固くややこしく結ばれた紐じゃ」
 それが天下だというのだ。
「それをどうするかはまことに楽ではない」
「織田殿がどうされるか」
「暫し観ますか」
「我等も。天下の統一は望まぬしのう」
 松永は織田家の者としてでなくだ。一族から話した。
「そういうことじゃな」
「はい、左様です」
「そのことはくれぐれもです」
「ご承知下さい」
「わかっておる。では河内に入ろうぞ」
 松永はここで話を変えてきた。家臣達の言葉に頷いたうえで。
「それではな」
「間も無くですからな」
「その河内も」
「いよいよです」
「河内は我等が中に入ればすぐに織田家のものになっていく」
 そうなっていくというのだ。
「あの国の国人達は三好殿とは上手にいっておらん者が多いからのう」
「ですな。では我等が入れば」
「そして声をかけていけばですな」
「河内はすぐに織田家のものとなる」
「そうなりますな」
「そうじゃ。河内は実にたやすい」
 織田家のものになるにはというのだ。 
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