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久遠の神話

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第三十六話 中田との戦いその一


                       久遠の神話
                   第三十六話  中田との戦い
「エンディミオン?」
「そう、ギリシア神話のね」
 昼休みに樹里は高等部の図書館で一冊の本を開きその席に座っていた。そしてそのうえで自分の席の向かい側にいる上城に話していた。
「月の女神セレニティの恋人でね」
「あれっ、ギリシア神話の月の女神っていうと」
 上城はそのセレニティという女神が月の女神と聞いて違和感を感じた。それで彼の知識の中から樹里に対して問い返したのだった。
「確かそれって」
「アルテミスじゃないかっていうのね」
「うん、あの狩猟の女神でもあるね」
「そうなの。確かにアルテミスもね」
 月の女神だとだ。樹里もそうだと認める。
 だがそれと共にだ。こうも言うのだった。
「アルテミスの先代なの」
「先代の月の女神なんだ」
「太陽の神様も代替わりしていてね」
「アポロンの前の太陽の神様もいるんだ」
「ヘリオスっていってね」
 その神の名前もだ。樹里は話してきた。
「アポロンとも代替わりしてるのよ」
「ふうん、そうだったんだ」
 その話を聞いてだ。上城は意外なものを感じた。これは彼の知らないことだった。
 だがそれでもだ。樹里はその上城にさらに話すのだった。
「アポロンやアルテミスはオリンポスにいるわよね」
「オリンポス山だよね」
「そう。そこにいる神様で」
 天空の神ゼウスの下に集うだ。その系統の神々だというのだ。
「それでヘリオスやセレニティはね」
「どういった系列の神様なのかな」
「どっちかっていうとティターンに近いのよ」
 こちらの系列だというのだ。
「オリンポスの系列の神々以前のね」
「あっ、そういえば」
「そう。このことは知ってるわよね」
「ゼウスが神様になる前に戦いがあったね」
 そのティターン神族とオリンポス神族の戦いのことはだ。上城も知っていた。
「あの時の」
「そう、相手がティターン神族だったのよ」
「確かクロノスが主神の」
 ゼウスの父である。つまり父の世代と子の世代の対立なのだ。
「その神様に近いんだ」
「それがヘリオスとセレニティなの。けれどね」
「けれど?」
「ヘリオスは老いてみたいで」
 それでだというのだ。
「アポロンに太陽神の座を譲ってね」
「それでセレニティも」
「アルテミスに譲ったの」
「譲ったんだ」
「そう。オリンポスの神々にね」  
 ギリシア神話の特徴の一つだ。神々の世代交代だ。その結果だというのだ。
「それでセレニティは月の女神を退いたの」
「そういうことがあったんだ」
「それでね」
「それでっていうと?」
「月から離れたセレニティはね」
 その女神がどうなったかということもだ。樹里は上城に話した。
「眠ったままになった恋人と一緒にいるのよ」
「エンディミオンと?」
「そうなの。魔法をかけられて永遠に目覚めることのなくなったね」
 そのエンディミオンと共にいるというのだ。
「それで何とか目覚めさせようと努力しているらしいのよ」
「そうしているんだ」
「そう書いてあるわ。この本にはね」
「成程ね。ただね」
「ただって?」
「いや、そのエンディミオンだけれど」
 上城は彼のことも聞いたのだ。その永遠に目覚めることなく眠っている彼のことを。
「魔法をかけられてずっと眠っているんだよね」
「ええ、そうよ」
「何でそうなったのかな」
 彼が疑問に思うのはそのことだった。
「魔法っていうからには誰かにかけられてそうなったんだよね」
「そうよ。セレニティがエンディミオンを愛する様になった時にね」
 まさにその時にだ。悲劇ははじまったというのだ。
「エンディミオンを好きなニンフが他にもいたらしいのよ」
「じゃあそのニンフがエンディミオンに魔法をかけたんだ」
「そのニンフは凄い魔法が得意だったらしくてね」
 そしてその魔法でだというのだ。 
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