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久遠の神話

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第三十四話 戦闘狂その五


 だからこそだ。上城達にこうも言ったのである。
「本当にできるなら戦わないで済ませたいですね」
「やっぱりそうなんですか」
「力は必要ですが使わないに越したことはないですしね」
「ましてや相手を倒すことは」
「できるならしたくはありません」
 高代の本音だった。偽らざる。
「そう思っていることは事実です」
「そうですか」
「そうです。勿論上城君ともです」
 その彼を見ての言葉だった。
「私は夢を適えますがそれでもです」
「戦うことは好きじゃないんですか」
「戦うことが好きな人もいるでしょう」
 そうした人間がいる可能性はだ。高代は否定しなかった。
「やはりそうした人も」
「いますか」
「剣士である可能性もあるでしょう」
「そうした人が出て来たら」
「関係ありません」
 他者は関係ないというのだ。
「ただ、戦うだけです」
「その人とも」
「それだけのことです。ですが上城君は」
「そうした人が実際にいれば」
「どうされますか、その場合は」
「わからないです」
 苦しい顔になっていた。今の上城は。
 だがそれでも高代から視線を逸らさずにだ。こう言ったのである。
「それでもい。逃げたくはないです」
「逃げない。絶対にですね」
「はい、そう思います」
「逃げないことは確かにいいことです」
 高代は教育者としてそのことは否定しなかった。しかしだ。
 それを絶対のこととせずにだ。上城にこうも言ったのである。
「ですが逃げるということもです」
「いいんですか?」
「時として。例えば圧倒的な暴力ですが」
 暴力、高代はまたこのキーワードを話に出したのだ。
「それを前にすればです」
「逃げることもですか?」
「己の身を守る為、何よりも心を守る為に」
「大事ですか」
「若し逃げ遅れた場合大変なことになることもあります」
 その大変なことはどういったことか、高代はそのこともよくわかっていた。だからこそ上城、自分から逃げずに顔を向け続けている彼に言うのだった。
「圧倒的な暴力は人を萎縮させます」
「さからですか」
「はい、逃げることも選択肢に入れておくといいです」
 そうだというのだ。
「それもまた」
「逃げてもいいんですか」
「時と場合によりますが」
「それでもですか」
「はい、それもまた選択の一つです」
 こう上城に話すのだった。
「逃げることは駄目ではないのです」
「ううん、そうなんですか」
「確かに逃げないに越したことはありません」
「向かっていって勝つことがですね」
「それがベストですが。圧倒的な暴力等に対しては」
「それでもですか」
「あがらえる状況でなければ」
 その時等はだというのだ。
「逃げるのも選択の一つです」
「それはどうしてですか?」
「自分を守る為です」
 逃げるのはだ。その為だというのだ。
「そうすることも選択の一つです」
「自分を守る為に」
「そうです。上城君はいじめられたことは」
「幼稚園の頃に。年長の人に」
 されたことがあるというのだ。 
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