久遠の神話
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第三十四話 戦闘狂その二
「そして生き残ります」
「そうですか」
「ただ。君はですね」
「はい、戦いたくないです」
このことは言う。しかし。
その言葉を俯きながら出したが。それでも目は生きていた。その生きている目で高代に対してこうも言ったのである。
「ですがそれでも」
「剣士達の戦いは」
「止めたいです」
その目での言葉だった。
「絶対に」
「では僕もですね」
「先生は戦いたいですか?」
何とかだ。上城は高代に顔を向けた。背けたかったがそれでは戦いを止められない、それに値しないと考えてだ。そのうえで彼に顔を向けたのだ。
そのうえでだ。こう問うたのである。
「そうしたいですか?」
「戦いですか」
「先生は。戦いはお好きですか?」
「好きではありません」
すぐにだ。高代はこう上城に答えた。
「それはやはり」
「そうですか。お嫌いですか」
「戦わないに越したことはありません」
広瀬と同じだった。この辺りは。
「それで願いが適うのなら」
「戦わないのですか」
「しかしです。資産も人脈もない人間がことを為すにはです」
「学校を創ることもですか」
「できません。不可能と言ってもいいです」
そこまでだというのだ。そしてこれはその通りだった。何かを為すにはこの二つは不可欠だ。それが世の中、人間の世界というものなのだ。
だからだ。高代はこう上城に答えたのだ。
「決して。ですから」
「戦ってですか」
「私は願いを適えるのです」
「他の剣士達を。僕を倒しても」
「因果ですね。教育を人を育て生かすものです」
少し苦笑いを、その穏やかで知的な顔に浮べてだ。高代は上城に述べた。
彼も上城の顔を見ている。そうしなければ願いを適える資格がないと思ったからだ。彼はそのうえで自分の生徒でもある上城を見て答えたのだ。
「しかしそれを適える為に」
「人を倒すからですか」
「それは因果なことですね」
高代はまた因果という言葉を話に出した。
「全く以て」
「それでもですか」
「私は戦います。夢の為に」
こう言うのだった。あくまで。
「そう考えています」
「そうなんですか」
「ですが私と止めたければその時は」
「先生とですか」
「私は待っていますよ」
教師としての言葉だった。ここでも。
「そして戦いましょう」
「そうですか」
「上城君が私を止められるのなら私の夢、理想の教育はそれだけのことだったのです」
遠い目も見せての言葉だった。
「ただそれだけのことですから」
「戦いを止めるにも戦わないといけないんですね」
「そうですね。国際情勢でもですね」
「確かに。戦いを止める為に」
「武力が必要です」
「自衛隊も必要ですね。警察も」
「その二つがないとどうにもなりません」
高代は警察だけでなく自衛隊も認めていた。この辺り多くの教師とは違っていた。尚こうした教師は自衛隊には反発するが先軍政治の国の軍隊はいいと言う。
「そういうものです」
「軍隊もまた、ですか」
「軍隊はむしろあるべきです」
積極的な肯定だった。
「あの組織の教育も大いに参考になりますから」
「だからですか」
「はい。人は相手や周りに武力、抑止力がない場合何をするかわからない人もいます」
「あっ、そういえば」
ここでだ。樹里も気付いたのだった。その気付いたこととは。
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