戦国異伝
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第六十七話 将軍の最期その二
「その通りでございます」
「まさかと思うが嘘ではないな」
「御主、嘘は吐いておらんな」
「本気じゃな」
「今は嘘は言っておりませぬ」
今は、というのが松永だった。彼の謀略については最早天下の誰もが知っている。どれだけ油断ならない者かというのも三人衆もよく知っている。
その三人衆に対してだ。彼はこう断ったのである。
「それがしまことに申しております」
「まこと。それではじゃ」
「御主、やはり今から公方様を攻めるか」
「そうするというのか」
「はい、まあ公方様も逃げられましょう」
実際はだ。義輝がそうしたことはしないと読んでいた。しかしだった。
「さすれば何の問題もありませぬ」
「しかし公方様を攻めるのだぞ」
「それをあえてするか」
「幕府に弓を引くというのか」
「幕府を滅ぼすとは言ってませぬぞ」
詭弁にもなっていないが平然と述べてだった。そうしてだ。
三人衆にだ。こんなことも言うのだった。
「次の公方様もおられるではありませぬか」
「次のか」
「次の公方様か」
「はい、おられます」
こう言うのだった。今度はだ。
「義栄様がおられます」
「ではあの方を立ててか」
「新しい公方様とされる」
「そうしてか」
「はい、それで問題はありませぬ」
ここでも平然として言う松永だった。
「それでいきましょう」
「御主、やはり公方様を攻めてか」
「逃げられなければ倒す」
「そうするか」
彼等も流石に殺すという言葉は使えなかった。遠慮があった。
そしてその遠慮故にだ。また言う彼等だった。
「やはり我等はじゃ」
「公方様を攻めるのは気が引ける」
「どうにもな」
「では御三方はこちらにおられて下さい」
彼等が攻めぬのならというのだ。
「それがしだけで攻めまする」
「弾正、御主そうしてか」
「どうしても公方様を攻め滅ぼすか」
「そうするというのか」
「その辺りは見解の相違ということで」
平然と答え。そうしてだった。
松永は渋る三人衆にだ。また問うたのだった。
「では御三方は攻められませんな」
「わし等はどうもじゃ」
「兵達も動かぬだろう」
「だからじゃ」
「いえ、御三方は攻められまする」
不意にだ。松永はこんなことを言った。
そしてだ。さらにだった。
「そして兵達も」
「!?何故そう言える」
「根拠は何じゃ」
「御主の今の言葉は何故言えた」
「攻められますな」
また松永が言うとだった。彼のその目が光りだ。
三人衆はその目を見てしまった。するとだ。
彼等は急に視点が定まらなくなる。それぞれ厳しい顔をしている彼等の顔も呆けた様なものになってしまいだ。そのうえでだ。
松永にだ。こう答えたのだった。
「そうじゃな。毒を喰わらばじゃな」
「迷っていても仕方ない」
「やるなら最後までじゃ」
「そう言われると思っていました」
彼等の操られたかの如き言葉に松永は満足した笑みを浮かべる。
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