戦国異伝
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第六十七話 将軍の最期その一
第六十七話 将軍の最期
都の入り口では。軍勢が揃っていた。
かなりの大軍である。その大軍が都の入り口にいるのを見てだ。
都の者達は誰もがだ。都から逃げ去ろうとしていた。
「逃げろ、また戦だぞ」
「都に入るに決まっておる」
「今のうちに逃げよ」
「さもなければ巻き添えになるぞ」
こう言ってだ。それぞれ都から離れ山に入る。それを見てだ。
軍の足軽達はだ。こう話すのだった。
「やはり戦かのう」
「噂では都に攻め入るとか」
「そして公方様と戦をするとのことだが」
「まことかのう」
「まさかとは思うが」
彼等はまさか将軍を相手に戦をするとは思っていなかった。しかしだ。
本陣ではだ。いよいよだった。軍議が熱を帯びてきていた。
その中でだ。質のいい具足に身を包んだ者達がだ。それぞれ言っていた。
「いよいよじゃが」
「都に攻め入るが」
「それでよいのじゃな」
「ほほう、動じておられるか?」
まだ迷いを見せる彼等にだ。笑いながら言う声があった。
見れば飄々としている様でそこにはえも言われぬ凄みがある。老人と言ってもいい顔立ちだがそこには老いは微塵も感じられない。
目は鋭く笑っていない。そうしてだ。
服も具足も闇だ。闇の色だ。その彼が目の前の三人に言うのである。
「今になり」
「しかしじゃ。幾ら何でも公方様に兵を向けるというのはじゃ」
「その。やり過ぎではないのか」
「そうじゃ。公方様に直談判でよかろう」
こう言う彼等だった。
「特に兵を動かさずじゃ」
「ここで兵を待たせ我等だけで御所に乗り込もう」
「そして公方様に御会いしようぞ」
これが三人、三好三人衆の意見だった。見れば三人共少し怯える様な顔になっている。自分達がこれからするかも知れないことに対して怯えている様だ。
しかし彼等と対する闇の衣の者、松永久秀はというと。
飄々としていながら油断のない笑みでだ。こう彼等に言うのだった。
「なりませぬな」
「では攻めるというのか」
「公方様を」
「足利義教公ですな」
松永もだ。この名前を出した。
「あの方と同じですな」
「では赤松の様に我等も」
「公方様を」
「何を怯えられまする」
三人がそうなっているのを見透かしての言葉だった。
「そうなられる必要はありますまい」
「馬鹿を言え、相手は公方様じゃぞ」
「それでどうしてじゃ」
「怯まずにいられぬのじゃ」
三人衆は口々に言う。
「御主は違うというのか」
「まさかと思うが」
「今は乱世ですな」
松永はここでも余裕綽々だった。その態度でだ。
彼はだ。こうも言うのだった。
「さすればです」
「問題ないと」
「そう言うのか」
「左様」
平然とだ。松永は答えた。
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