久遠の神話
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第二十八話 使い捨ての駒その八
「それでも勝つことはできるよ」
「それでもなの?」
「要は闘い方だよ」
つまり戦術、それが大事だというのだ。
「それが大事なんだ」
「闘い方がなの」
「ほら。どんなスポーツでもそうじゃない」
「実力が上でも負けることがあるってことね」
「巨人なんかそうじゃない」
上城はプロ野球の球団をその例え話に出した。
「巨人はいつも戦力だけは凄いじゃない」
「お金使ってかき集めてね」
「うん。他のチームから獲って来た選手でチーム作るから」
それが巨人のやり口である。人は金さえ積めばそれでいいというのだ。ただこのやり方で手に入れた選手は何故か数年で劣化していく。
その巨人を例え話に出してだ。上城は話すのだった。
「それで戦力だけは凄いよね」
「けれどそれでもよね」
「毎年優勝はできないよね」
「つまりそれは」
「そう。闘い方なんだ」
戦術、まさにそれが大事だというのだ。
「原監督の戦術もそんなに悪くないけれどね」
「相手も工夫するってことね」
「そうだよ。だからね」
「中田さんもなの」
「大事なのは闘い方なんだ」
上城は樹里に話していく。
「そこをどうするかなんだよ」
「そうなのね。じゃあ中田さんも」
「勝つことは可能だよ」
「じゃあ私達は見ているだけなのかしら」
「あの権藤さんが僕達を狙わなければね」
そのことを抜いてだった。だが上城の今の話を聞いてだ。
権藤は二人に顔を向けてだ。彼等にこう告げた。
「安心するといい。私は今は君と闘うことはしない」
「そうなんですか」
「闘うのは彼とだ」
中田を見てだ。こうも言った。
「あくまで今はだ」
「そうですか。中田さんとだけですか」
「そういうことだ。そしてだ」
「そして?」
「そちらのお嬢さんには何もしない」
樹里に対しては一切手を出さないというのだ。
「このことは絶対に約束しよう」
「私には何もですか」
「君は剣士ではない」
何故樹里には手を出さないのか。その理由はここにあった。
「それではだ」
「闘わないというんですか」
「私が戦い倒すのは剣士だけだ」
あくまでだ。剣を持ち闘う者だけだというのだ。
「他の誰とも戦うことはしない」
「ですか」
「私は政治家になる」
今度は自分自身からの言葉だった。
「それならばだ。犠牲を出そうともだ」
「それでもですか?」
「それは最低限に抑えなければならない」
まさにだ。政治の観点からの言葉だった。
「剣士同士の戦いで済むのなら犠牲は剣士だけでいいのだ」
「だから私には攻撃されないのですか」
「関係ない者を巻き込む政治家はそれだけで失格だ」
こうも言う権藤だった。
「少なくとも私はそうはしない」
「あんた、結構弁えてるんだな」
権藤にだ。中田が正面から言った。権藤の身体は今も中田に向いている。顔だけを樹里に向けてだ。そのうえで話をしていたのである。
「犠牲は最低限でいい、か」
「そうだ。あの男とは違う」
壬本とはというのだ。
「あの男のことは君達に謝罪しよう」
「ああ、あいつが樹里ちゃんを狙ったことか」
「あそこまで下衆とは思わなかった」
これはだ。権藤も予想していなかったというのだ。
「私の読みが甘かったか」
「あいつはまた特別だからな」
中田もだ。壬本についてはうんざりとした顔でこう述べた。
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