久遠の神話
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第二十七話 愚劣な駒その十二
「ここからね」
「逃げてって」
「あの人は。また村山さんを狙うよ」
「今みたいに」
「この人は剣士じゃない」
怒りをだ。その言葉にも出した。
「そしてね」
「そして?」
「まともな人じゃない」
このことも見抜いてだ。上城は樹里に言ったのである。
「おかしいよ。かなり」
「おかしな人。それはそうね」
「何をするかわからない人だよ」
壬本の本質をだ。上城は見抜いていた。
そのうえでだ。こう言ったのだった。
「だから逃げて」
「巻き添えを受けない様に」
「そう。だから逃げて」
こう言ったのである。
「そうしてくれるね」
「わかったわ」
小さく頷いてだ。樹里は答えた。
そしてそのうえでだ。その場を去ろうとする。しかしだ。
壬本は上城ではなく彼女を狙おうとしていた。その目が剣呑に動いた。
だが上城は剣を手にだ。こう言ったのである。
「やらせません」
「闘うんだね」
「いえ、守ります」
そうするとだ。剣を両手に構えて言ったのである。
「村山さんを」
「守るっていうんだね」
「はい、貴方に害は及ぼさせません」
これが今の上城の考えだった。
「絶対に」
「詭弁だね。守るって」
「そう思われるのですね」
「うん。そうじゃない?」
こう言ったのである。
「それはね」
「違います。ただ」
「ただ?」
「貴方にはわからないだけです」
上城もこうは言いながらも言葉としてはわかっていない。だがその感覚でだ。この違いがわかっていた。そしてそのうえでこう言ったのである。
「それだけです」
「わからない?僕が」
「はい、そうです」
ぶれていなかった。全く。
「それでもそれはです」
「僕にはわからない」
「そうです。僕は村山さんを守ります」
これが今の彼の考えだった。
「貴方から」
「他人の為に?」
「はい」
やはりだ。上城はぶれていなかった。
「絶対にです」
「人なんか。人なんか」
壬本はサイコ的にだ。言葉を出してきた。
そしてそのうえでだ。こうその上城に言った。
「何なんだ」
「貴方も人間ですよ」
「他人は。パパもママもクラスの皆も店長も」
あらゆる相手をだ。彼は出してきた。
「皆僕を馬鹿にして否定して」
「確かにそれは気の毒ですが」
「僕が何をしたっていうんだ」
「それはご自身に御聞き下さい」
上城の言葉はきつかった。ここでは。
「貴方ご自身に」
「僕に?」
「そう、貴方にです」
他ならぬだ。壬本自身にだというのだ。
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