久遠の神話
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第二十七話 愚劣な駒その十一
「これまでの剣士の人と違ってね」
「何か」
「おかしいね」
壬本の異常性はだ。二人もすぐに察した。そのうえでの言葉だった。
「明らかにね。けれどそれでも」
「闘いたくないのね」
「人間だから」
壬本がそれだからだとだ。上城は困惑している目で述べた。
「そうしたくはないよ」
「じゃあどうするの?」
「樹里ちゃんは逃げて」
そうしろとだ。上城は樹里に告げた。
「この人。どう見てもおかしいから」
「私にも?」
「何をしてくるかわかったものじゃないからね」
だからだ。樹里は逃げろというのだ。
「そうしてくれるかな」
「けれど。それは」
「いいから。僕は大丈夫だから」
樹里は上城が自分の楯になることを察してだ。去ることに対して躊躇を見せた。だがその彼女にだ。上城は落ち着いて告げたのである。
「安心してね」
「ここから逃げろというのね」
「そうしてくれるかな」
上城のその声は切実なものになっていた。
「また後で合流しようね」
「じゃあ」
「女の子だね」
その樹里をだ。壬本も見た。そしてだった。
樹里に向けてだ。その剣を振ったのだった。それと共にだ。
闇の刃が剣から放たれだ。それがだ。樹里を襲ったのだった。
「じゃあ。邪魔だから」
「!?まさか」
「私を!?」
それを見てだ。上城も樹里も。目を瞠った。
闇が樹里に迫るのを見てだ。上城は動いた。そしてだ。
そのうえでだ。彼の剣を振った。そこから。
水を出してそれで闇を打ち消した。それからだ。
彼はだ。壬本を見据えて言った。
「彼女は関係ない筈です」
「いたからね」
「いた?」
「そう。戦場にいたからだよ」
だからだというのだった。
「だから攻撃したんだよ」
「剣士ではないのにですか」
「だから。君の彼女だよね」
上城を見据えてだ。壬本は問うたのである。
「だからだよ。こうしたんだよ」
「そして彼女を殺して」
「君を挑発しようと思ったんだけれどね」
「たったそれだけの為に」
壬本のその言葉を聞いてだ。上城はというと。
怒りを見せてだ。こう言ったのだった。
「貴方という人は」
「さあ。どうするのかな」
あらためてだ。壬本は上城に問うてきた。
「僕と闘うのかな」
「それは」
「さあ。どうするのかな」
「上城君、まずはね」
助けられた樹里がだ。その彼に言ってきた。今上城は彼女の前に立ちそのうえで守っている。その彼の後ろからだ。樹里は言ってきたのだった。
「有り難う」
「御礼はいいよ」
それはいいという上城だった。
「危なかったから。けれど」
「けれど?」
「村山さんは逃げて」
これがだ。上城の樹里への言葉だった。
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