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久遠の神話

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第二十七話 愚劣な駒その十三


「御聞き下さい」
「僕は悪くない」
 血走り濁った目でだ。壬本は上城の今の言葉を否定した。
「絶対に。悪くない」
「そう思われているのですね」
「そうだ。皆が悪いんだ」
 剣を無作法に握りながら。壬本は言うのだった。
「皆が。僕を否定して罵って」
「上城君、この人って」
 上城の後ろからだ。樹里がそっと言ってきた。彼の背から顔をそっと出して壬本を見ながらだ。そのうえで彼に対してこう言ってきたのである。
「もう」
「うん、何もわからなくなっているね」
「そうよね」
「ことの善悪が」
 そうなっているというのだ。
「わからなくなってきてるね」
「そうよね。もうね」
「多分最初からだけれど」
 彼等が出会うだ。それより前からだというのだ。
「確か。それに」
「それにって?」
「この前中田さんがお話してくれたじゃない」
 ここでだ。上城は中田から聞いたあの話を思い出したのだ。
「ほら、あのね」
「あっ、かつてクラスメイトだった」
「そう、あのどうしようもない人」
「それが、なのね」
「中田さん壬本って言ってたじゃない」
「名前も同じだし」
「間違いないよ」
 目の前にいるその無様な男こそがだ。中田の話していたあの男だったというのだ。
「名前も同じだし行動もね」
「そうね。それじゃあ」
「うん、あの人だよ」
 上城はまた樹里に述べた。
「間違いなくね」
「じゃあこの人は」
「中田さんも言ってたけれど」
 彼の話を思い出しながらだ。上城は己の後ろにいる樹里に述べた。
「本当にどうにもならない人みたいだね」
「そうね。自分しかなくて」
「ことの善悪がつかないから」
「本当にあれなのね」
「うん、どうしようもない人だよ」
 上城は樹里を見ながら述べた。
「これはね。だからね」
「どうするの?それで」
「守るよ」
 樹里に対して言った言葉だ。
「だから安心してね」
「守ってくれるの」
「だから。逃げて」
 背中越しにだ。樹里に告げた。
「今からね」
「ええ、じゃあ」
「僕は」
 そしてだ。彼はだというのだ。
「樹里ちゃんと一緒にいるよ」
「守ってくれるから」
「そう。だから一緒に逃げよう」
 結果としてだ。上城はこの選択肢を選んだ。
「そうしよう。いいね」
「ええ、それじゃあ」
「さて。行こう」
 確かな微笑みでだ。また樹里に告げた。
「一緒にね」
「うん」
 樹里は微笑みだ。上城の言葉に応えた。そのうえでだ。
 二人で壬本の前から逃げようとする。しかしだ。
 ここでまた、だ。あの声が聞こえてきたのだった。
「ああ、想像もしなかったよ」
「中田さん」
 中田だった。彼は悠然としてだ。上城から見て左手から出て来た。そうしてゆったりとした感じで歩きながらだ。上城達に右手を挙げて言ってきた。
「よお」
「あっ、こんにちわ」
「こんにちわ」
 上城だけでなく樹里もだ。彼に挨拶を返した。
 その挨拶の後でだ。中田は上城達にこう言ってきた。
「こいつは俺に任せてくれないか?」
「中田さんにですか?」
「この人を」
「ああ、認めたくはないけれど知り合いだからな」
 それ故にだというのだ。 
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