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久遠の神話

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第二十四話 七人目の影その十


 そしてその俯いた顔でだ。上城はこう樹里に答えた。
「今は。すぐには」
「結論を下せないのね」
「うん、考えさせて」
 上城は俯いたままだ。深い思案に入っている顔で答えていく。
「とりあえずはね」
「わかったわ。じゃあ」
「若し僕が戦いを降りたら」
 樹里の言う通りだ。そうすればだというのだ。
「僕は死なないよね」
「剣士じゃなくなるから」
「そうだよね。だから僕は剣士としての危険も悩みも」
「そういったものとはね」
「解放されるね」
「ええ、そうなるわ」
「僕は助かるんだね」
 戦いを降りればそうなる、このことはよくわかった。だが。 
 それでもだった。彼が思っていることはだった。
「けれど戦いは」
「剣士としての戦いは続くでしょうね」
「最後の一人になるまでは」
「ええ、それはね」
 このことは樹里もわかっていた。彼女は今はあくまで上城のことを案じていた。そしてそれはだ。戦いのことをあえて考えないで言ったことなのだ。
 そのことについてはだ。樹里はだ。
「他の人は他の人で」
「決めてそうして」
「戦うかそうしないか決めるしかないかな」
「僕は僕、そして」
「人は人だから」
 それでだというのだ。しかしだ。
 樹里も自然にだ。俯いた顔になっていた。その顔で言ったのである。
「上城君は上城君でね」
「僕は僕で考えて」
「降りたらどうかしら」
「・・・・・・・・・」
 沈黙してしまった。言葉を出せなくなった。 
 しかしその彼にだ。樹里はさらに言うのだった。
「あくまで上城君が決めることだけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「まずは自分のことを考えてね」
「僕自身のことを」
「利己主義っていうのかしら」
 このあまりよくない響の言葉をだ。樹里はあえて言ってみせもした。
「それになるかも知れないけれど」
「それでも」
「そう。何もかも命あってのことじゃない」
 それでだというのだ。
「だからね。戦いはね」
「降りることも」
「考えてみてね。できれば私は」
「僕に降りて欲しいだね」
「死んで欲しくないから」
 実に率直にだ。樹里はこうも告げた。
「だから」
「僕だってね」
 上城もだ。樹里のその言葉を受けてだ。俯きながら言った。
「死ぬことはね」
「嫌よね」
「死にたい人なんてそうはいないと思うよ」
 それこそだ。精神的に参ってしまっているか自殺マニア以外はだとだ。上城は言う。そして彼はそこまで参ってもだ。自殺マニアでもないのだった。
 だからこそだ。それで言うのだった。
「だから僕もね」
「死にたくないのね」
「それはその通りだよ。本当にどうしたらいいのかな」
 考えがまとまらずにだ。言う上城だった。
「今すぐにはわからないよ」
「けれど。よく考えてね」
「うん、結論を出すよ」
「そうしてね。けれどどんな選択をしてもね」
 それでもだというのだ。樹里は彼に告げた。
「死なないでね」
「絶対にだね」
「ええ、死なないで」
 このことは絶対にだと。樹里は強く言うのだった。そしてだ。
 上城もこのことは強く意識した。死んではならない、このことが。
 そうした話をしながら昼の時間を過ごした。そしてこの日の放課後だ。
 彼は部活の後でだ。樹里と共に下校していた。そこにだ。
 中田が来た。彼は笑顔で二人に声をかけてきた。
「よお、今帰りかい?」
「あっ、中田さん」
「暫くぶりだな。とはいってもな」
 上城の今の顔を見てだ。中田はだ。
 目を二度、三度しばたかせてからだ。こう言ったのだった。 
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