久遠の神話
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第二十四話 七人目の影その九
「二刀流になることには」
「賛成はしないんだね」
「反対もしないは。というよりはね」
「それとこれとはまた別問題だね」
「そう思うわ。だから上城君は」
そしてだ。彼はどうするべきかというのだ。
「上城君の剣道でね」
「強くなっていくべきだね」
「力はそれでどうにかなっても」
「問題はやっぱり」
もう一つが問題だった。強くなるべきのだ。
「心よね」
「心を強くするにはどうすればいいかな」
「ううん、力は身体を鍛えればいいけれど」
そのことについてはだ。樹里はこれでいいとした。
だが心についてはだ。こう言うしかできなかった。
「難しいわね。心は」
「そうだね。それが一番ね」
「難しいわね。武道は本来そういうものだけれど」
「心身を鍛えるっていってもね」
それでもだとだ。上城も難しい顔で言う。
「それができてない人も多いんだよね」
「あの前お話してくれた先生だよね」
「そう、ある中学校で顧問だったね」
「剣道が幾ら強くても」
樹里は上城から聞いただ。その教師のことを話した。
「とんでもない人だったわよね」
「心のない力は暴力っていうけれど」
「まさにそれよね」
「うん、それだとね」
「剣士としてもね」
まさに忌むべきものだとだ。上城も樹里に話す。
「銀月さんが一番否定するね」
「それに他ならないから」
「だから僕はああした人にはね」
決してだというのだ。あの教師を反面教師として話しもする上城だった。
「絶対にならないよ」
「そしてその為には心もだけれど」
鍛えなくてはならない、そうなることだった。
「剣士として何かをするには」
「力も強くなって。心も」
「そうしないと僕は僕の目指すことを選ぶこともできない」
「ということはね」
このことからだ。樹里はあることに気付いた。そしてだ。
その気付いたことをだ。上城自身に言ったのだった。
「上城君はまだ戦いのスタートラインにも立っていないのよ」
「まだ。そうだったんだ」
「そう。戦いたくないよね」
「止めたいと思ってるよ」
「それでもね。そうするスタートラインにもね」
「立っていなかったんだ」
「そうなのよ。上城君はそうだったのよ」
このことにだ。樹里は気付いてだ。そうしてだ。
上城の安全のことを考えてだ。こう言ったのだった。
「スタートラインに立っていないのならね」
「逃げたことにも何にもならないから」
「降りる?」
上城の方を見てだ。彼に言った言葉だった。
「そうする?剣士の戦いは」
「そうしたら僕は」
「命を落とすこともね。悩むこともね」
「どちらからも解放されるんだ」
「そう。だからね」
それでだというのだ。樹里は。
「今のうちに。そうしたら」
「そうしたら僕は剣士でなくなるよね」
「そうよ。危険じゃなくなるわよ」
あくまで彼のことを気遣ってだ。その安全の為に言うのだった。
「私はそう考えるけれど」
「僕は戦いを降りる」
「うん。そうしたら」
「考えさせてくれるかな」
もう中庭を見ていなかった。自然と俯いていた。
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