戦国異伝
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第五十九話 一夜城その八
蜂須賀はだ。夜の中木下にこう言った。
二人で向かい合って座り干し魚を食べている。それが晩飯だ。その硬い魚を噛み潰しながらだ。彼は木下に言うのであった。
「わしも川で生きてきた」
「だから誘ったのじゃ」
「そうじゃな。陸を進むより速く墨俣に着けるぞ」
「それに多くのものを運べるな」
「特に尾張や美濃は川が多い」
それが水害をもたらしもするがそれ以上に水運や肥沃な土地ももたらしている。
「川を使えばかなり楽に進める」
「左様、しかも斉藤はそのことに気付いてはおらぬ」
「だから船を使ってか」
「こうして一気に進んでな」
「夜に墨俣に着き」
進む時間と辿り着く時間も考えている。そこまでだ。
「それからじゃ」
「城を築くか」
「うむ、築く」
確かな声でだ。木下は蜂須賀に答えた。
「一夜でじゃ」
「城を一夜でか」
「そうじゃ、一夜で築くぞ」
「また突拍子もないことを言うのう」
木下の今の言葉にはだ。蜂須賀は。
これまで以上に呆れた顔になりだ。こう彼に対して言った。
「城が一夜で築けるものか」
「何、簡単な城じゃ」
「簡単でも城は城じゃぞ」
「何、築き方はもう頭の中にある」
「御主の頭の中にか」
「要は斉藤を攻められる城を築くのじゃ」
それが大事だとだ。木下は言うのである。
「砦の大きなものでもよい」
「砦のか」
「しかし砦ではなく城じゃ」
それは違うというのだ。線引きをしてある。
「城を築く。あくまでな」
「しかし城は決して一夜で築けぬ」
「ははは、だから見ておいてくれ」
木下はまた笑って蜂須賀に言う。
「墨俣に着けばすぐにじゃ」
「その城を築くか」
「そうする。その為に今は寝て休むのじゃ」
「ま御主がそう言うのならじゃ」
蜂須賀もだ。どうかというのだった。
「わしはそれでよい」
「賛成してくれるか」
「賛成するしかなかろう」
これが蜂須賀の返事だった。やはりその顔は憮然となっている。
「話に乗ったからにはな」
「ではな。まずは墨俣じゃ」
こうした話をしてだった。彼等は。
その墨俣にだ。夜に着いた。しかし夜になったばかりだ。
墨俣に着くと早速だった。木下は。
蜂須賀や秀長にだ。こう命じたのだった。
「簡単に堀を作ってそれで木で壁をじゃ」
「作ってか」
「そうしてですね」
「櫓も作る」
それも忘れない。
「ただしじゃ」
「ただし?」
「夜じゃ。外見だけ整えよ」
それだけでいいというのだ。
「城の形だけを見せればよい」
「見せれば?」
「そうじゃ。見せるだけでよい」
木下はにこにことして弟に話す。
「それだけでよいのじゃ」
「あの、しかし一夜でと仰いましたが」
「人の目は猫や梟のそれとは違う。夜はあまり使えぬ」
「それはその通りですが」
「だからじゃ。外見だけ城にすればいいのじゃ」
「まずはですか」
「そうして次の日は思いきり休む」
一晩働いてからだ。その次の日はというのだ。
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