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戦国異伝

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第五十九話 一夜城その九


「しかしその次の日にじゃ」
「本格的に」
「左様、城を築く」
 ここで木下は強い顔になって述べた。
「よいな。そうするぞ」
「一日休むのですか」
「朝に一夜でできた城を築けば斉藤の者達はどう思う」
 斉藤の者達はだ。どうかというのだ。
「それこそ心の臓なり肝なりを口から吐き出すぞ」
「間違いなく驚くでしょうな」
「そしてこれからどうするか大騒ぎで話し合う」
「我等はその間に一日休みそのうえで」
「一気にまともな城にするのじゃ」
「そうされますか」
「そうじゃ。見せて驚かせることが寛容じゃ」
 木下はにこにことしたまま弟に話す。
「これでわかったじゃろう」
「成程、考えられましたな」
「ただ城を築くだけでは芸がない」
 こうも言うのだった。
「相手を驚かせるのもやり方じゃ」
「人を驚かせて楽しむのは殿の大好きなことですが」
「ははは、わしもその殿に影響されたやもな」
「そこを影響されましたか」
「どうもな。しかしそれを敵にやるのはじゃ」
「かなりの効果がありますな」
「敵も人じゃ」
 木下の言うことの要点の一つだ。
「同じ人ならばじゃ」
「考え、そして動きますな」
「何を考えどう動いてくるかじゃ」
 木下の目は真剣なものになっていく。この話になれば。
「それを考えて手を打つのじゃ」
「戦はそうするものですか」
「ひいては全てじゃ」
「全てのことがですか」
「左様、人と人がやることについては全てじゃ」
 戦だけではなくだ。そうした世のあらゆることがだというのである。
「何を考えてどう動いてくるのかを考えてじゃ」
「こちらもそうする」
「読むことじゃ」
 相手をだというのだ。
「今回斉藤はわしがこうしたことをしてくるとは全く考えてはおらんな」
「ですな。間違いなく」
「そして一夜にこの墨俣に城ができることもじゃ」
「それも全く考えておりません」
「しかしそこで城ができる」
 斉藤の方は全く想定していない。まさにそこがだというのだ。
「大きいぞ。実に大きな一手じゃ」
「将棋で言えば勝負を決める一手ですな」
「功もでかい」
 このことを言うのも忘れない。
「わしも御主もじゃ。大きな功を挙げることになるぞ」
「ではそれによって」
「母上はより楽になる」
 弟に話す最も大事なことである。
「よいな。その為にじゃ」
「はい、何としても」
「城をここに築くぞ」
「わかり申した」
「とにかく一晩で形だけを整える」
 城の形、何につけてもそれからだった。
「そして敵を驚かせれば終わりじゃ」
「その間に城を本格的に整えてですか」
「ちょっとやそっとでは陥とせぬものにしたらよい」
「敵がどれだけの数で来るかも問題ですな」
「まあそんなに来ぬじゃろ」
 そのことも安心していると。木下は言う。
「あまり多くはな」
「来ませんか」
「只でさえ国人がどんどん離反しておるしな」
 それにより兵の数が減っているのだ。国人の下にいる兵達もそのまま信長につく。ただ国人それぞれに去られるだけではないのだ。 
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