久遠の神話
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第二十話 ハヤシライスその十四
「それこそな」
「実際に八百万はいるよね」
「もっと多いだろ」
「もっと多いかな」
「日本じゃそうだな」
そのだ。八百万の神がいる国ならばだというのだ。
「仏様だっているしな」
「そういえばいたね」
「ああ、だから八百万以上はいるだろ」
「それじゃあ恋愛の神様も」
「幾らでもいるだろうな」
父は首を捻りながら述べた。
「実際にな」
「ううん、中々凄いね」
「そうだな。それでな」
「それでなんだ」
「あらためてな」
再び上城と樹里を見てだ。そうしての話だった。
「じゃあこのままな」
「このままですか」
「どうだっていうの?」
「二人は二人のペースで行ってくれ」
息子に言われてだ。父も軟化して二人に言ったのである。
「そうしてくれよ」
「ええと、それは」
「何ていうか」
困った顔で帰す二人だった。こうしたことは奥手だった。
それでだ。返答に困っているとだ。
弟がだ。姉にこう言ってきた。
「お姉ちゃん、ドレッシングあるかな」
「えっ、ドレッシング?」
「そう、ドレッシングあるかな」
ハヤシライスと共に父の作ったそれにかけるだ。それがあるかというのだ。
「それ欲しいけれど」
「あっ、これね」
樹里は咄嗟に手許を見た。するとそこにだ。
市販のオニオンのドレッシングがあった。それを手に取りだ。
そのうえで弟に差し出してだ。こう言うのだった。
「はい、これ」
「有り難う。それじゃあ貰うね」
「ええ。それじゃあ」
「ドレッシングはやっぱりあれだよ」
返答に窮していた姉にだ。弟はあえて述べた。
「オニオンだよね」
「私はフレンチも好きだけれど」
「まあそこは人それぞれだけれどさ」
「それでもなのね」
「そう、それとね」
弟は今度は上城を見た。そのうえで彼にも声をかけた。
「上城さん茹で卵欲しいですか?」
「あっ、まだあるんだ」
「幾らでもありますよ」
そう言って実際にだ。彼にテーブルの中央にある殻のままの茹で卵を手に取り渡した。
「好きなだけ食べて下さいね」
「有り難う。それじゃあ」
こうしてだ。二人は弟の助け舟に乗ってだ。食事に戻れた。そうしてだ。
食べ終わってからだ。帰る時にだ。上城はこう見送りの樹里に言われた。
「御免ね、今日はね」
「お父さんのことかな」
「お父さんあんなこと言って」
結婚やそうした話についての言葉だった。
「気を悪くしたわよね」
「そんなことないけれど」
「本当に?」
「うん、特にね」
「だといいけれど」
上城のその言葉を受けてだ。少しほっとする樹里だった。
そしてそのうえでだ。玄関でこう彼に言った。
「じゃあまたね」
「うん、またね」
「明日学校で。それにね」
「それに?」
「よかったらまた来て」
微笑んでだ。彼に家にまた来て欲しいというのだった。
「またこのお家にね」
「また来ていいのかな」
「何時でも来ていいから」
こうまで言うのだった。上城に対して。
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