久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十話 ハヤシライスその十三
「僕は上城君には勧めないね」
「そういうことなんですか」
「そう、だから当たってね」
「砕けるんじゃなくて」
「そう、手に入れるんだ」
生きてだ。そうしろというのだ。
「わかったね。それじゃあ樹里のことは」
「あの、ですから」
「ああ、駄目だよお父さん」
ここでだ。言ってきたのは弟だった。自分の父に咎める顔で言ったのだ。
「姉さんにも上城さんにもそんなこと言ったら」
「駄目か」
「そうよ、駄目だよ」
それはだ。どうしてもだというのだ。
「二人共奥手なんだから」
「奥手だからこそだな。お父さんは」
「いいじゃない。こういうことは自然にどうにかなるんだし」
「自然にか」
「神様がお話を進めてくれるからね」
弟が話に出すのは神様だった。
「だから別にね。僕達が何カをしなくてもいいんだよ」
「そうなのか」
「そうそう」
そういうものだと話す彼だった。
「僕達はそっとしておけばいいからね」
「そういうものなのか」
「っていうかお父さん外見は真面目だけれど」
実際に真面目だがだ。彼はその父にあえて言うのだった。
「お母さんに対してはどうだったの?」
「母さんにはか」
「そうだよ。一体何やって結婚までこぎつけたんだよ」
「まあそれはな」
父はその話題になるとだ。これまでのテンションを少し落としてだ。
そのうえでだ。こう答えたのである。
「特にな」
「特に?」
「気付いたら結婚していたな」
そうなったというのだ。
「いや、本当にな」
「気付いたらって」
「それで樹里や御前が出来ててな」
「親父になってたっていうんだね」
「そしておじさんなっていたな」
ただ父親になるだけではなかったというのだ。それにもなったというのだ。
「いや、本当に気付いたらな」
「で、今に至るんだね」
「ああ、そうなんだ」
こうだ。かなり大人しくなって息子に話したのである。
「いや、考えてみれば本当にすぐだったな」
「それじゃあ何のアドバイスもできないと思うけれど」
「いや、それでもだ」
「姉さん達にアドバイスするんだ」
「感覚でわかるからな」
何処かの背番号三の様なことを言い出す父だった。尚この父どころか樹里も弟もアンチ巨人である。
「その辺りはな」
「いい加減だね、何か」
「いい加減か?」
「うん、かなりね」
そうだと述べる弟だった。
「まあそれでもさ。姉さんと上城さんはさ」
「強引にじゃなくてか」
「そっとしておくべきだね」
そしてなのだった。
「神様に任せてね」
「恋愛成就の神様にか」
「そう。色々な神様がいるけれどね」
「神様は多いからなあ」
父も息子の言葉に応えて言う。
ページ上へ戻る