戦国異伝
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第五十五話 美濃の神童その十一
「ここは見ておこう」
「様子見ですか」
「そうされますか」
「確かに稲葉山の城は欲しい」
信長もだ。このことは否定しなかった。
だが、だ。それでもだというのだ。
「仮にわしがその方等の誰かをあの城に使者として送る」
「はい、すぐにそうしてですな」
「竹中殿と話をしてそのうえで」
「あの城を譲り受ける」
「そうされますか」
「しかしそうしてもじゃ」
どうかというのだ。実際に話をしてもだ。
「その竹中半兵衛が城を譲り渡すか」
「確か野心はない者と聞いていますが」
「ですから。我等の誰かが行って話をしてです」
「そうして家臣として厚遇するとか言えば」
「それで城を譲り渡してくれるのでは」
「国を乗っ取る様な者ではない様ですから」
「確かにあの者には野心はない」
信長も竹中のそうしたものは見抜いていた。
「だからこそああしたことをしたのだ」
「城を占拠した」
「そうだというのですか」
「うむ、それでじゃ」
まさにだ。その野心のない故にだというのだ。
「野心があれば龍興を殺して国を乗っ取るわ」
「城を乗っ取るのではなくですか」
「国をですか」
この場合城と国は違うものになっていた。よく同じものに例えられるがだ。
そこは違うとしたうえでだ。信長は今話すのだった。
「そうした者だからこそじゃ」
「野心がない故に?」
「我等には城を譲らない」
「そうだと仰るのですか」
「野心で手に入れたものはそれ以上の野心を見せられれば手放す」
信長は人間の欲から話した。
「しかしそうしたものがなく手に入れたものはじゃ」
「手放すことはしない」
「左様ですか」
「あの城はすぐに龍興めに戻すじゃろう」
竹中の心理をだ。尾張にいながら読んで話してみせるのだった。
「だからじゃ」
「あの城はですか」
「求めてはなりませんか」
「今はな」
少なくともだ。竹中からはというのだ。
「見ておくに限る」
「では今はですか」
「様子を見てですか」
「斉藤の動きを見る」
「竹中殿の動きもまた」
「うむ、そうする」
まさにそうだとだ。信長は言い切った。こうしてだった。
彼は今は様子を見ることにしたのだった。そうしてだ。
何ともないといった顔でだ。家臣達にこうも言った。
「では美濃の国人達にはこれまで以上にじゃ」
「話をしてですか」
「こちらに引き込む」
「そうされるのですね」
「そして斉藤家の重臣達にもじゃ」
声をかけるというのだ。
「わかったな」
「遂に斉藤の重臣達もですか」
「こちらに引き込まれますか」
「そうしていってですか」
「斉藤家を弱らせこちらの力を強くする」
敵の人材を引き込むことは相手を弱体化させるうえにこちらの力を強くさせる。まさに一石二鳥であった。信長は伊勢の時と同じくだ。
そうしていってだ。戦略を進めていくのだった。
その話が終わってからだった。彼は。
今度はだ。こんなことを言った。
「さて、今日の話はこれで終わりじゃ」
「さすればですか」
「今宵は」
「宴じゃな。そうなっておったな」
信長は酒は飲めないがそれでもだ。宴は好きなのだ。
それでだ。今宵もだというのだ。
その中でだ。笑みを浮かべて話す。
「伊勢の魚は美味だったのう」
「それに海老もですな」
「どれも」
「餅もよかった」
信長は餅も好きだ。それで言ったのだった。
「小豆も使っておったしな」
「ですな。殿のお好きな甘いものもありましたし」
「あの地はよいものでした」
「また行こう」
己の国になっただ。その伊勢にだというのだ。
そうした話をしてだった。彼は今は宴を楽しむのだった。そのうえでだ。美濃の動きを見るのだった。今はそうしていたのだった。
第五十五話 完
2011・8・26
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