久遠の神話
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第十四話 水と木その三
「それは今もありますね」
「かなり廃れていると思います」
こうだ。上城はその武士道に基く美学について述べた。
その前置きからだ。彼は聡美に答えた。
「ですがそれでもです」
「ありますね、今でも」
「はい、あると思います」
その通りだとだ。上城も答える。
「それはやっぱり」
「そうですね。ですから」
「僕も逃げるのは」
「これがギリシアならです」
どうかというのだ。聡美の国ならだ。
「勇者は時としてです」
「逃げることもあるんですか」
「背を向けてもそれでもです」
「生きればですね」
「はい、ヘラクレスもヒドラから一旦逃げたことがあるといいます」
これは神話にある。そう伝えられてもいるのだ。
「ですから」
「逃げるのはいいんですか」
「そうです。ですが日本ではですか」
「けれどそうも言っていられませんか」
「まずは生きることです」
何につけてもだ。それが第一だというのだ。
「そうして下さい」
「生きる。そうすれば」
「はい、必ず戦いを終えさせることができます」
聡美は上城の目を見てだ。確かな声で言うのだった。
「ですからお願いします」
「時として逃げても」
「恥を受けてもです」
「恥、ですか」
「人は。神もそうですが」
神と言ったところで聡美は唇を噛んだ。しかしそれは上城にも樹里にも気付かないものだった。
そのことに聡美自身気付かずにだ。さらに話すのだった。
「人は恥を受けて生きるものです」
「ですね。僕もこれまで生きてきて」
「私もです」
上城だけでなくだ。樹里も言う。
「何度も。数え切れない位恥をかいてきました」
「ここではとても言えない様なことを」
「生きている限りは恥を受けます」
また言う聡美だった。
「ですから。酷いことをあえて言いますが」
「恥を受けてもそれでもですか」
「生きて下さい」
この場合はだ。逃げてもだというのだ。
「お願いします」
「難しいです」
上城も答えられなかった。そのことは。
それでだ。聡美にこうも言うのだった。
「やっぱり僕は逃げたくないです」
「背を向けたくはないですか」
「はい、けれどそれ以上にです」
「剣士同士で戦いたくないですね」
「そして戦いを終わらせたいです」
この二つは確かに持っていた。自分自身で否定できないまでに。
「こんな。無益な戦いは」
「そうですね。それではです」
「戦いません」
また言う上城だった。
「そしてその為にはですね」
「逃げることも時として必要です」
「ですが」
ここでだった。樹里が言ってきた。
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