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戦国異伝

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第五十話 徳川家康その四


「今川殿から自立して五十万石に至りました」
「しかしそれに留まらずですか」
「百万石じゃ」
 家康は言った。これだけの力を。
「わしは百万石の大家を目指すぞ」
「何と、百万石ですか」
「かつての今川殿と同じくですか」
「それだけの家になられるというのですか」
「そこまで目指されますか」
「そうじゃ。五十万石では留まらん」
 また言う家康だった。
「百万石じゃ。そこまで目指すぞ」
「大きいですな」
 家康のその話を聞いてだ。本多は唸る様にして述べた。
「百万石とは」
「大きいと申すか」
「はい、大きいです」
 本多もだ。それは否定しなかった。
「百万石となると。今もそうは」
「天下にはおらんな」
「三好に武田、上杉、北条に毛利」
「そて織田殿じゃ」
「それだけでございます」
 天下にもだ。百万石を超える家はこれだけしかない。実に数多くの国人や大名達がいてもだ。そこまでの家になるとそれだけだった。
「やはり少のうございます」
「それで百万石を目指すとなると」
「大望でございますな」
「そうじゃな。しかしわしはじゃ」
 己の考えはどうかとだ。家康はここで話した。
「欲を張っているつもりはない」
「それはないと仰るのですか」
「そうじゃ、ない」
 そうだというのだ。欲はないというのだ。
「むしろ謙遜しておるつもりだ」
「謙遜、でございますか」
「そうなのですか」
「そうじゃ。まずわしは百万石で満足じゃ」
 それだけあればだ。充分だというのだ。
「それ以上は求めん」
「百万石よりはですか」
「それで終わりだというのですな」
「そうじゃ。二百万石、武田や北条とまではいかん」
 まさに天下で屈指のだ。彼等程のものは目指さないというのだ。
「天下も求めぬしな」
「それで百万石で止まる」
「そうなのですか」
「人は欲をかくものではない」
 このことをだ。家康は常に意識するようになっていた。それは何故かというと。
「義元公も尾張に攻め入らなければじゃ」
「ああはならなかった」
「そういうことですか」
「確かにあの戦はまさかと思った」
 家康にしても織田が勝つとは思っていなかった。少なくともあそこまであっという間にはだ。あちらが勝つとは思っていなかったのだ。
 だがそれでも今川が敗れていることは確かだ。だからこそ言うのだ。
「しかし。天下を目指され欲を出されてじゃ」
「大名としては滅んだ」
「だからですか」
「殿は」
「うむ、多くは求めぬ」
 そうだというのだ。つまりは慎重にいくというのだ。
「百万石、天下は決して求めぬ」
「わかりました。そういうことですか」
「欲は出さぬということですな」
「百万石で十分であるしな」
 今度はだ。足りるを知るというのだ。
「だからじゃ。そこまでじゃ」
「では我等もです」
「欲を出さずにいきます」
「そうさせてもらいます」
「うむ、それで頼むぞ」
 こうした話をしてで、であった。家康は徳川家のこれからの方針も決めるのだった。そうしてだ。 
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