戦国異伝
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第五十話 徳川家康その五
その彼等のところに来た川尻に対してだ。家康はまずはこう告げた。
「おお、鎮吉殿よく来られた」
「お久し振りです」
川尻も頭を下げてからだ。家康に対して応えた。彼の周りには徳川の家臣達が控えている。その彼等が川尻に視線を集中させている。
その中でだ。彼は言うのだった。
「それがしがここに来た理由ですが」
「うむ、何でござるかな」
「他でもありません」
こう言うのである。
「我が織田と徳川殿がです」
「手を結ぶべきだというのですな」
「左様です」
家康のその顔を見ながら答える。その目の光は強い。
その目でだ。彼を見ながら話すのだった。
「その結び付きとしてです」
「何でありましょうか」
「織田家の姫五徳様と徳川殿の御嫡男竹千代様がです」
「婚姻を結ぶと」
「それでどうでしょうか」
こうだ。家康に対して話した。
「これが我が殿からの申し出でございます」
「ふむ。よい話でありますな」
家康は話を聞き終えてからだ。こう答えた。
そしてそのうえでだ。こうも言うのだった。
「しかしでござる」
「しかしとは」
「いや、それがし実は」
笑みを浮かべてだ。川尻に告げる。
「それは宜しいのですが」
「では。同盟を結んで下さるのですな」
「その前にでござる」
楽しみな笑みになってだ。川尻に話を続ける。
「尾張にお邪魔したいと思っております」
「尾張にですか」
「左様、尾張にです」
こうだ。川尻に対して話すのである。
「そうしたいのですが」
「わかりました。それではです」
川尻は表情には出すものを出さずにだ。そのうえでだった。
家康に対してだ。言葉を返したのである。
「我が殿にお話しておきます」
「吉報を待っておりますぞ」
家康は今度は屈託の長い笑みで述べた。
「さすれば」
「はい、さすれば」
こうしてであった。家康は川尻に信長と尾張で会いたいと告げたのだった。
そしてその話をしてからだ。にこやかに笑って家臣達に話すのだった。
「これでよい」
「宜しいですか」
「あれで」
「実は同盟を結ぶことはじゃ」
それはだ。どうかというのだ。
「既に決めてあるのじゃ」
「ということは」
「やはり」
「そうじゃ。同盟は結ぶ」
そのことは既に決めているというのだ。家臣達にもそれを話す。
「必ずのう」
「そうですな。織田殿との同盟はです」
「我等にとって悪いことはありませぬ」
「西からの脅威がなくなるだけでなく」
つまりだ。武田に専念できるというのだ。
徳川は今は東に武田、そして西に織田を抱えている。それならばだというのだ。
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