戦国異伝
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第五十話 徳川家康その三
「これでまずはよしじゃな」
「はい、晴れて徳川となりました」
「三河の守護にもなりました」
「まずはよしですな」
「まことに」
「そう。まずはじゃ」
よいとだ。家康も言う。
「しかし遠江の守護はじゃ」
「それは武田殿が手に入れられましたな」
「残念なことに」
「仕方ないがのう」
このことは諦める口調の家康だった。その口調でこうも言うのであった。
「相手は甲斐源氏の直系じゃしな」
「はい、名家です」
「残念ですが家として格が違います」
「強さだけではありませんから」
「そういうことじゃ。武田殿が相手ではじゃ」
遠江の守護の座を争ってもだ。答えは出ているというのである。
「どうにもならんわ」
「ですな。しかしこのことは仕方ないにしてもです」
「何かあればです」
「その時は」
「そうじゃな。腹を括るしかない」
それしかないとだ。家康も言うのだった。
そのうえでだ。ここでだ。
酒井と共にいる三人を見るのだった。その彼等は。
一人は精悍な顔立ちをした背の高い若武者だ。その目の黒さは青く見えるまでに澄んでおりしかもその光は強い。その彼の次にいるのは。
その男より少し年配のだ。苦み走った顔の男だ。背は若い男よりは幾分か低いがそれでも周囲を圧するには充分なものがある。その男がいた。
三番目は一番若い。背は四人の中で最も小さいがまるで相撲をしている者の様にがっしりとした身体つきをしていて目は細い。その三人だ。
彼等を見てだ。家康は言うのであった。
「本多忠勝、榊原康政、井伊直政。これでじゃな」
「はい、我等徳川四天王」
「今ここに参上しました」
「殿の御前に」
こうだ。三人も家康に対して応えた。
そのうえで一礼してからだ。彼等は家康に対して言うのである。
「例え武田が来ようと北条が来ようともです」
「我等四天王、この身を粉にして戦い」
「殿を御護り致します」
「そう言ってくれるか。実はじゃ」
ここでだ。家康は言うのだった。
「わし一人ではどうにもならん」
「どうにもならないとは」
「どういうことでありましょうか」
「わし一人で戦に勝てるとは限らん。しかしじゃ」
四天王を見てだ。そのうえでの言葉は。
「御主等がいれば負ける気はせぬ」
「そう言って頂けますか」
「我等がいればですか」
「それで」
「そうじゃ。御主等の他に」
他の家臣達も見てだ。そのうえでの言葉は。
「これだけの家臣達がおる。わしは決して負けぬ」
「そしてこれからはですな」
「三河の主として生きていく」
「そうされますな」
「左様じゃ。この三河を守り」
そしてだというのだ。
「徳川はさらに大きな家になろうぞ」
「さらにとは」
「今よりも大きくですか」
「そうした家になるというのですか」
「これからは」
四天王だけでなくだ。他の家臣達も言うのだった。
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