久遠の神話
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第十三話 想いの為にその九
「彼女もな」
「ああ、真深ちゃんだな」
「あの娘は俺を絶対に裏切らない」
広瀬はまた言った。
「そういう娘だから」
「いいねえ。恋愛ってのは」
「全くだよ」
周囲はその彼をいささか冷やかしてきた。
「俺もそういう相手欲しいよ」
「俺もだよ」
そしてこう言うのだった。
「早く彼女見つけるか」
「コンパでな」
「いいからな。実際に」
屈託のない、少なくとも剣士達には見せない笑みをだ。広瀬は友人達に見せた。
「一緒にいるとそれだけで」
「幸せか」
「そうなるんだな」
「だから」
それでだともいうのだった。
「大学を卒業して就職したらな」
「結婚だよな」
「それだよな」
「今から準備しているんだよ」
広瀬は仲間達に話しながらあのことを考えていた。
そしてだ。自然にこう言ったのだった。
「そう。だから」
「だから?」
「だからっていうと?」
「例え何があっても」
決意と共にだ。彼は言った。
「俺は戦う」
「戦う?何だよ戦うって」
「博打でもするのか?御前そういうのしたか?」
「確か博打嫌いじゃなかったか?」
「そうじゃなかったか?」
「いや、ギャンブルじゃない」
広瀬自身もだ。そのことは否定したのだった。
「そういうことはしない」
「ああ、だよな。御前ああいう賭けごと嫌いだったよな」
「あれで儲けるのは蔵元だけだって言ってな」
「つまり興業してるヤクザ屋さんとかだけだってな」
「そう言ってるからな。いつも」
「だからしないってな」
「あんなのは戦いじゃない」
ギャッブルに対する全否定だった。彼はそれすら言った。
そしてだ。また友人達に話した。
「俺の戦いは」
「馬か?」
「馬に乗るのか?」
「それ戦いじゃないだろ」
「それでもない」
乗馬も否定した。確かに乗馬は競走があるがそれでも戦いではなかった。あくまでスポーツである。それも馬と共に駆ける健全なスポーツだ。
そのことは広瀬もわかっているからだ。それで言うのだった。
「俺の言う戦いは」
「だから何だよ」
「物騒なこと言ってないか?今」
「だよな。ちょっとな」
「普段と雰囲気違うぜ」
「どうしたんだよ」
「あっ、それは」
だが、だ。広瀬はここで気付いたのだ。自分が何を言ってるのかをだ。
それでだ。彼は自分の言葉を打ち消してだ。それで仲間達にこう話したのだった。
「何でもない。言うなら」
「ああ、何だよ」
「何が戦いなんだよ」
「それで」
「人生自体がだな」
そういうことにしたのだった。自分の中で考えてからだ。
「戦い。そういうものじゃないかな」
「ああ、それか」
「そういう意味か」
「そうだったんだな」
「そうだ。戦いはそういうものだと思う」
そういうことにしてだ。広瀬はその場を取り繕っていく。
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