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戦国異伝

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第四十八話 市の婿その十一


「ここはな」
「くっ、では仕方がない」
 武者の顔に鋭いものが宿った。
 そのうえでだ。
「御主もじゃ」
「では」
 男は彼の言葉を受けてだ。それでだった。
「そこまで言うのならじゃ」
「刀を抜くのじゃ」
「抜くきはせぬ」
「何っ!?」
「わしはそんなことはせぬ」
 こうだ。男は言い切ってきた。
「決してな」
「何故抜かぬ」
「ここは抜くべき時ではない」
 だからだというのだ。
「だからだ。決してじゃ」
「いいのか?このままだと」
「来い。来たくばな」
 強い声だった。それの声を受けてだ。
 武者もだ。遂にであった。
 刀を収めだ。こう言うのだった。
「よいわ」
「刀を収めるか」
「そうする」
 憮然としながらだ。武者も言う。
「御主に免じてじゃ」
「そうか。そうしてくれるか」
「ではな」
 こうして騒ぎは終わった。そこまで見てだ。
 木下は唸る顔でだ。こう言うのであった。
「うむ、見事」
「確かに。あの者はかなりですな」
「若いというのに」
「あれでこそじゃな」
 供の者に応えてだ。木下はまた言った。
「いやはや、これはようござるな」
「あの、木下殿」
「どうされたのですか?」
 供の者達はここで木下の態度が違うことに気付いた。
 そのうえでだ。彼に問うのだった。
「どうも感心しておられるようですが
「先程の者に」
「あれだけでなければとな」
 木下はもう姿が見えなくなった彼のことをさらに話すのだった。
「そう思ったからじゃ」
「はて。といいますと」
「一体何が」
「まあ。これで決まりじゃ」
 あえて誰かは言わずにだ。彼は供の者達にこう述べた。
 そのうえでだ。市に対しても言うのであった。
「市様、さすれば」
「さすれば?」
「わかりましたし後は近江を旅しますか」
「この国をですか」
「後は細かい場所まで見ます」
 そうするというのである。
「そうしてです」
「長政様が私の夫に相応しいかどうか見極めるのですね」
「さらにです」
「さらに?」
「そう、さらにでござる」
 笑いながらだ。こう答える木下であった。
「そうするとしましょう」
「はて」
 市もだ。彼の今の言葉にだ。
 首を傾げさせ。わからぬといった顔になるのだった。 
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