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戦国異伝

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第四十八話 市の婿その九


「私が」
「なっ、幾ら何でもそれは」
「なりませぬ」
「お止め下さい」
 だがそれはだ。即座にだった。
 供の者達がだ。止めに入ってきた。
「あまりにも危のうございます」
「相手は刀を抜いておりますぞ」
「若しものことがあれば」  
 見ればその武家の者はもう刀を抜いていた。剣呑なことこのうえない。
 しかもだ。さらにである。
「ですからここはです」
「どうか御自重を」
「ですか。薙刀も持っていませんし」
 市はそれが使えるのだ。この辺りは帰蝶と同じである。
「ですからここはですね」
「はい、くれぐれも」
「御自重を」
「わかりました。しかしです」
 それでもだとだ。市は喧騒を見ながら言うのだった。
「ここは何とかしなければならないですが」
「ああ、それならです」
 出て来たのは木下だった。
「それがしにお任せを」
「藤吉郎殿がですか」
「騒ぎを静められますか」
「どうということはない」
 木下はこう供の者達に話す。これは彼にとってはという意味である。
 そのうえでだ。彼はこう市達に話すのだった。
「要は空気を変えれば」
「空気を」
「それを」
「あの剣呑な雰囲気を変えることでござる」
 大事なのはそれだというのだ。
「そうすればよいのです」
「ではここは一体」
「どうすれば」
「さて、それでは」 
 木下は早速だった。芸人、それもやけに明るい服を着た如何にも陽気そうなそれになってだ。そのうえで彼は前に出ようとするのだった。
「では」
「芸で雰囲気をですか」
「変えられるのですか」
「左様、そうすればよい」
 こう言うのである。
「さすれば今より」
「では御願いします」
「そうして」
 こうしてだ。木下は彼のやり方で老人を救おうと出た。ところがだ。
 芸人より前にだ。ある若い武者が出て来てだ。
 そのうえでだ。こう彼に言った。
「まあ待て」
「何だ御主は」
「御老人は謝っておられるではないか」
 こうだ。その武者に対して言うのである。
「さすればだ。ここはだ」
「どうせよというのだ」
「刀を収められよ」
 穏やかな口調で。武者に対して言う。
「よいな。今はだ」
「無礼を働いた者を見過ごせというのか」
「御老人はわざとやったのではないようだが」
「それでもだ」
「許せぬというのか」
「馬は武士にとって命よ」
 そうだとだ。この武者は怒って彼に言った。 
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