戦国異伝
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第四十六話 寿桂尼その一
第四十六話 寿桂尼
信長が清洲において寿桂尼との会見の場を設けることはだ。すぐに松平の耳にも入った。
そのことについてだ。元康は岡崎においてこう言うのであった。
「ううむ、これはまたな」
「考えられませんでしたね」
「少し」
こうだ。家臣達も言うのだった。見ればだ。
彼等の服は黄色になっている。服だけでなく脇差の柄もである。また元康も黄色の服を着ている。松平の色は黄色になろうとしていた。
その黄色の中でだ。元康は言うのであった。
「迂闊だったが寿桂尼様のことは忘れていた」
「我等が独自に立つことに夢中で」
「ここ数日そのことばかりでしたから」
「そうじゃ。とても考えられなかった」
まさにそうだとだ。元康は家臣達に話すのである。
「そこまではな」
「そうですね。まことに」
「最初は武田殿が引き受けられるつもりだったようですが」
「織田殿が言われたそうで」
「そこがわからん」
元康は袖の下で腕を組みだ。いぶかしむ顔で首を捻る。
そのうえでだ。彼はこう家臣達に述べた。
「織田殿に何か利があるのか」
「それもわかりません」
「織田殿には何があるのか」
「寿桂尼様と御会いされて」
「何を考えておられるのか」
「織田殿は昔から思わぬことをされるのを好まれる」
元康は幼い頃のことを思い出して話した。
「その中にはじゃ」
「こうしたこともですか」
「ありますか」
「桶狭間でもそうだった」
元康は桶狭間のことも話に出した。
「あれはどう思っておった」
「はい、まさかあの様なことをされるとは」
「雨の中にいきなりですから」
「ああしたことをされるとは」
「それではですか」
「そうじゃ。あれを見てもじゃ」
こうだ。元康は話していく。
「織田殿は何をされるかわからんところがのう」
「では今度もですか」
「その思わぬことをですか」
「されているのですか」
「そしてじゃ」
言葉が付け加えられる。しかもだというのだ。
「それが必ず大きなことになる」
「大きなことにですか」
「それになっていく」
「桶狭間と同じくですか」
「そうなっていきますか」
「そうじゃ。そうなるのじゃ」
元康は強い顔になっていた。そのうえでの言葉だった。
「だから今度もじゃ」
「今度もですか」
「何かを考えておられますか」
「織田殿は」
「それが何かもわからん」
また言う元康だった。
「しかし今度も。大きなことを考えておられるだろう」
「そういえばです」
ここで言ったのは本多だった。彼であった。
「織田殿には今は」
「義元様と氏真殿だな」
「はい、御二人がおられます」
本多が言うことはこのことだった。
「ですから」
「人質にはなっているがそれは狙いではないな」
元康は読みはじめた。信長のその真意をだ。
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