戦国異伝
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第四十四話 元康の決断その七
「それはまた相当な者の様ですな」
「まだ若いがのう」
「この場合若さは関係ありますまい」
こう述べたのは信行だった。
「その者の資質かと」
「そうじゃのう。そしてその真田の次男がじゃ」
「どうなるというのでしょうか」
「一体」
家臣達が問うとだ。信長はこう答えた。
「先陣じゃな」
「その駿河攻めの先陣ですか」
「それをその真田の次男が務めるというのですか」
「真田幸村という者が」
「見物じゃな。武田二十四将にさらにもう一人強者が入るか」
信長はここでも楽しげに話す。
「そうなるのかのう」
「しかしですぞ」
村井がだ。楽しげな主にあえて話すのだった。
「只でさえ強大な武田にもう一人そうした者が加わればです」
「手に負えんか」
「恐ろしい相手になりますが」
「そうじゃのう。しかしじゃ」
「しかしとは?」
「武田にもう一人将が入ってもじゃ」
それでもだとだ。ここで信長の言葉が変わった。
そしてだ。彼は家臣達に話すのだった。
「二十五人。それに対して我等はじゃ」
「違うと」
「そう仰るのですか」
「御主達がおる」
「我等が、ですか」
「そう言って頂けますか」
「ははは、世辞じゃ」
笑ってだ。こうした冗談も言ってみせる。無論家臣達の信長のその世辞という言葉が冗談なのはわかる。本心が何処にあるのかもわかっている。
その本心をだ。信長は話すのだった。
「御主達ならば武田も上杉も恐れぬ」
「その二つの家もですか」
「越後までも」
「その代わりやってもらうことはやってもらう」
笑ってだ。信長はこうも言った。
「働いてもらうぞ。存分にな」
「ではまず伊勢ですな」
松井が言った。
「何はともあれあの国ですな」
「今からどう治めるか調べておくことじゃ」
「わかりました」
松井はだ。信長の言葉にすぐに頷く。そうしてこう話すのだった。
「既に幾らか考えております」
「ほう、速いな」
「殿はせっかちですから」
信長のその早急な性格によるものだとだ。松井も笑って話すのだった。
「ですから」
「それでもう考えておったというのじゃな」
「御言葉だったでしょうか」
「よい。何事も速いのが一番じゃ」
「さすればですな」
「それでよい。そして美濃もじゃ」
続いてだ。この国もだった。
「あの国は一つ考えがあるからのう」
「といいますと」
「何でしょうか」
「川じゃな」
それだというのだ。
「一度じっくりと見てみるが川になるじゃろうな」
「堤でしょうか」
丹羽が言った。
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