戦国異伝
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第四十四話 元康の決断その六
「織田殿はおそらくです」
「武田殿や上杉殿に比肩しますか」
「それだけの方ですから」
「ではその織田殿なら」
何をするのか。今度は細川から話した。
「この乱れた天下も」
「おそらくは」
明智はその可能性を否定しなかった。
「果たせるでしょう。現にです」
「既にもう動いておられるのでしたな」
「はい、伊勢にしきりに人をやっていますし」
「では間も無くですか」
「伊勢はその全てが織田殿のものとなるでしょう」
そうなるというのだ。
「流石に今すぐではありませんが」
「左様ですか。夢の様な話ですね」
細川もだ。信長の今について感心してだ。そうして話すのだった。
「うつけと言われていた織田殿が」
「傾いておられたのでしょう」
「傾いてですか」
「あの方はそうされているのです」
今もだ。信長は傾いているというのだ。
その傾きが理解されずだ。それでだというのだ。
「うつけだと思われていたのです」
「しかし実は違っていたと」
「奇矯な方ではあるでしょうがうつけではありません」
「ではその傾いた方がですか」
「必ずや大きなことをされます」
二人は都でだ。こうした話をしていた。そしてその渦中の人物信長はだ。木下達の帰還も迎えてそのうえでだ。彼は言うのであった。
「さて、そろそろじゃな」
「そろそろといいますと」
「今度は一体」
「武田じゃ」
この家の名前を出すのだった。ここでもだ。
「おそらくもう攻め入る準備をしておろう」
「駿河にですな」
「あの国に」
「駿河は程なく武田の手に入る」
それは決まっているとだ。こう述べるのだった。
「武田は確実に駿河を手に入れる。しかし遠江はある程度で止まる」
「あの国はですか」
「途中でなのですか」
「信玄は慎重な者じゃ」
このことも天下によく知られていた。ただ戦に強いだけではないのだ。信玄はそうした慎重さも兼ね備えている。そうした意味で真の名将なのだ。
「駿河だけで充分でしかも遠江の半分程度も手に入れるとじゃ」
「後の政のことを考えてですな」
木下がすぐに言った。
「それで動きを止めますな」
「そうじゃ。そうしてそこまで手に入れた地の政に専念する」
そう読んでいるのだった。間違いなくそうなるとだ。
「まあかなりの力はつけるがな」
「しかし。武田が動きますか」
林はこのこと自体に怪訝なものを見せて述べた。
「二十四将が」
「しかも最近出て来ておるな」
信長は二十四将以外にもだ。もう一人の名を挙げるのだった。
「真田幸村という者じゃ」
「真田ですか」
「左様、真田じゃ」
「あの家の者で。それは」
林は主の話を聞きながらだ。ある者に行き着いた。その者は。
「確か次男ですか」
「左様、あの家のな」
「その者が出て来ておるのですか」
「その智勇は比類なきだそうじゃ」
何故か信長はだ。彼のことを楽しげに話すのだった。
「信玄からも目をかけられておるらしい。高坂弾正と並ぶ武田の柱になる者としてな」
「あの者とですか」
それを聞いてだ。目を光らせたのは佐久間だった。
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