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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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#24 "offstage noises"

 
前書き

情報の目的は知識ではない。正しい行動である。



ー ピーター・ドラッカー ー 

 
【11月2日 AM 0:27】

Side バラライカ

机の上に置かれたファイルを手に取り、改めて眺める。
もう何度も見たもので新しい発見などない。
そもそも自分にはこういう調査染みた事など向いていない。
何年"マフィアごっこ"を続けても、慣れないものは慣れない。出来ない事は出来ない。

机にファイルを放り出す。
開かれたままのそれには、微細な文字で書き込まれた報告書と現場で撮られた写真が綴じられている。

それらから目を離し、両の指を組み合わせ出来上がる小山に顎を乗せる。
照明を絞った執務室で虚空を睨みながら、考えるのは今回の事態。

敵の狙いは奈辺にあるのか。

現場の状況から分かるのは相手が"兵士" ではないこと。
襲撃犯が殺し自体を楽しんでいるのは明らかだ。
粛々と任務を遂行しているわけではない。
拷問も行われた形跡はない。情報を引き出そうとしたわけでもなさそうだ。
そして、 死体は基本的にその場に放置されている。
一部を切り取って持ち帰る事も、此方に送り付ける事もしてきてはいない。
ただ殺す事だけが目的のようだ。

「………」

皮膚の下に虫が入り込んだような不快感を覚える。気に入らんな。

この街が"そういう人間"を引き寄せるというのは分かる。
獣は自分にとって居心地のいい場所を嗅ぎ当てるものだ。
それはいい。
だが、何故ホテル・モスクワの関係者ばかりが狙われる?
個人的な復讐?恨みか。
いや、そんなものはあの現場にはない。
そんな"真っ当な感情"は持ってはいない。

狙われるのは構わない。
対象がホテル・モスクワであれ、この街の利権であれ、私個人であれ、構わない。
この街を焼け野原にしようというなら尚歓迎だ。
この街には幾つか借りを残している事もある。自分から動く事は出来ない。
だが、誰かが火を点けようというなら……戦争を起こそうというなら……

コンコンッ

部屋に響くノックの音に内側へと入り込んでいた意識を表層まで引き上げる。

「入れ」

私の短い返答を受け入室してきたのは予想に違わず副官のボリス。
そのままデスクの前まで歩き、敬礼してくる彼をじっと見据える。

「失礼致します。大尉殿(カピターン)
ご報告があります」

無言のまま用件を促す。
我が副官は常に冷静さを保つ。その表情からは良い報告か、悪い報告かの区別はつかない。

「行動中の哨戒班からの報告です。三合会の構成員による街の哨戒行動が活発化しているようです」

「ほう」

張め、何か掴んだか。或いは此方への牽制か……
あの男は街の安定こそ望んでいる。私に好き勝手に暴れられては困るだろうからな。

「また、 これはつい先程得た情報なのですが、張維新とラグーン商会が接触を持ったそうです。
会談の中身までは入手出来ておりません」

同志軍曹からその報告を受けた時、私は確かに感じた。
何も感じなくなっているはずの右半面に痛みとも熱さとも言えない何かを。

「その会談はどこで行われたものか」

「ラグーン商会所有の船内で行われたものであります」

「会談に参加したものは」

「はっきりとした事は分かっておりません。ですが、ラグーン商会側はダッチとゼロの二人だけであったようです」

「その会談は昨日行われたものだな」

「はっ!そのとおりであります。大尉殿(カピターン)

そこで一旦言葉を止め、考え込む。ボリスは直立不動のままだ。
私が再び口を開いたのはそれから一分も経っていなかっただろう。

「現時点で三合会と争うのは得策ではない。私の指示があるまで無用な衝突は避けるように」

「はっ。了解であります」

「次に"同志諸君"に伝えろ。行動する際は二人一組(ツーマンセル)を 徹底せよと。
単独行動は厳に慎むように」

「はっ。全員に徹底させます」

「それからラグーン商会のメンバーを一人私の前に連れて来い。聞きたい事がある」

「どちらを呼ばれますか」

惜しいな、ボリス。あの二人相手ではどうせ大した話は聞き出せんよ。

「今回はゼロでもダッチでもない」

そう、今回はな。

「では、誰を?」

僅かながらに訝しげな表情を浮かべるボリスに私はソイツの名を告げた。

たまには搦め手から攻めるのも良いだろう。何しろ相手は中々に喰えない奴だからな。













【11月1日 PM11:42】

Side ???

おい!あのガキ共どこ行った?
また部屋に居ねえんだよ、畜生!
だからしっかり見張ってろって言ったじゃねえかよ!
どうすんだよ……ボスが帰ってきたらまた殴られるぜ。

ああ! あんな薄気味悪いガキの側に居られるかって逆ギレしてんじゃねえよ!
うんざりしてんのは皆一緒なんだよ!

糞っ……マジでやべえぞ。
街じゃあ、全員が犯人探ししてる。
あの糞ガキ共が死んでくれるんなら、それはそれで良いけどよ。
万一俺らが裏で糸引いてるなんてバレたら、シャレなんねえぞ、オイ!

ホテル・モスクワだけじゃねえ。
奴等に媚び売りたい街の連中からも狙われるじゃねえかよ。
うう……何でこうなっちまうんだあ?
だから俺は反対したんだよ。
そんな訳のわかんねえガキなんざ使うもんじゃねえって。
どういう迷惑引き起こされるか、分かったもんじゃねえって。
それをボスが強引によお……

とにかくあのガキ共が帰ってきたら、勝手に部屋から出ないように今度こそ監視しようぜ。
それとボスにも相談した方がいい。
ヤバイぜ、ヤバイよ、今の状況は。本当にヤバ過ぎるぜ……











 
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