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戦国異伝

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第三十七話 二つの砦その九


「ではやはりうつけ殿ではありませんか」
「宗滴殿が見られるだけの方なのですね」
「わしは長い間生きてきた」
 この戦国の世をだ。それならばだというのだ。
「そのわしが見てじゃ」
「織田は尋常なものではない」
「そうなりますか」
「その織田と戦うことになるだろう」
 そうなるとだ。確信して言うのだ。
「その頃に織田がどれだけ強くなっておるかだが」
「それ次第で我等は」
「どうなりましか」
「勝てぬかもな」
 そうではないかとだ。宗滴はそのことをありのまま述べた。
「若しやな」
「左様ですか。その時の織田次第では」
「勝てませぬか」
「しかし戦わねばならぬ時ならばだ」
 どうなるかというのだ。
「戦うしかないのだ」
「そして勝たねばならない」
「そうなりますか」
「ぞういうことじゃ。織田信長か」
 今度はだ。彼のその名前を言ってみせた。
 そしてそのうえでだ。彼のことをさらに考えて言うのであった。
「間も無く天に昇るな」
「尾張の蛟龍、それが」
「天に」
「そして龍になると」
「天下を飲み込まんばかりの龍か」
 そこまでの巨大な龍が信長だというのだ。
「青い龍よ」
「むっ、青といえば」
 ふとだ。一人がここでこんなことを言った。
「織田はその鎧や旗を青にしていますが」
「そうじゃな。青で統一しておる」
「武田は赤、上杉は黒でして」
「そして。他の家もか」
「はい、浅井殿は藍色にされましたな」
 朝倉と同盟を結んでいるだ。その浅井がその色になったというのだ。
「その色に」
「藍色。そうじゃな」
「近頃家によって色を定めてきております」
 戦国の流れの一つになってきていた。それは織田や武田だけではなくなってきていたのだ。彼等はそれぞれの色になってきているのだ。
「毛利の緑もそうですし」
「それぞれの色にか」
「ですが我が朝倉は」
「特に色を決めることはないとな」
 宗滴はその者にだ。こう告げるのだった。
「殿が仰っておる」
「殿がですか」
「そう、殿がじゃ」
 他ならぬだ。朝倉義景がだというのだ。
「そう仰ってだ。我等の色はない」
「そうなのですか」
「我等に色はありませぬか」
「必要ないとおおせられているのだ」
 宗滴は義景の言葉を再び彼等に述べてみせた。
「その様にな」
「確かに。ただの飾りですから」
「色というものは」
「所詮は」
「で、あればよいのだが」
 不意にだ。宗滴のその言葉が変わった。
 そうしてそのうえでだ。急にこんなことを言うのであった。
「色はただの飾りであればな」
「?といいますと」
「色に何かあるのでしょうか」
「そう仰るのでしょうか」
「例えば武田の赤じゃ」
 まず例えとしてだ。武田とその色であった。 
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