戦国異伝
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第三十七話 二つの砦その八
「そしてただ勝つだけではない」
「今川に勝つだけではですか」
「それに終わらぬと」
「それがはじまりとなろう」
信長は勝ちそれで終わる男ではないというのだ。彼はそのことも見抜いていた。
「瞬く間に力をつけ。そして」
「そして」
「そしてといいますと」
「天下を臨む男となるであろう」
そこまでの者だというのである。信長はだ。
「尾張から美濃を手に入れ近江まで手に入れればだ」
「まさに都は目の前」
「だからこそですか」
「そうだ、そこまで容易くする」
言葉に余計なものを入れていない。断言故のことである。
「そしてやがては」
「まさか。この越前にまでですか」
「迫ると」
「天下を狙うなら。そして殿がその織田に向かおうとされるならば」
「その織田と戦になる」
「そうなりますか」
「わしはだ」
宗滴はここで話を変えた。己の話にである。
「もう少し前に死ぬと思っていた」
「いえ、それは」
「その様なことは」
「言わずともよい。わしのことはわしが一番よくわかっている」
その高齢故にだ。最早彼はかつての頑健な身体ではなくなっていたのだ。
だからこそだ。わかっているのである。
「長くはない」
「しかし今こうして生きておられます」
「それは」
「こう考えるのだ」
遠い目になってだ。そのうえでの言葉だった。
「わしは織田信長と戦う為に生きているのではないかとな」
「あの男とですか」
「宗滴様が」
「そうだ。そして戦だ」
どうなるか。そのことも話すのだった。
「織田とのな」
「織田との戦ですか」
「一体どういう戦になるか」
「果たして」
「そこまではわからん。しかしだ」
それでもだというのだ。彼はだ。
「織田は強いだろう」
「弱兵と評判ですが」
「それでもですか」
「この言葉を知っているか」
宗滴は織田が弱兵ということにはだ。こう返すのだった。
「羊も狼が率いればだ」
「強くなる」
「そう仰るのですか」
「そうだ、最も大事なのは兵ではない」
兵も大事だがだ。それ以上にだという意味である。
「将なのだ」
「だからですか」
「織田は強い」
「そう仰いますか」
「そうだ。だから織田は強い」
これが宗滴の言うことだった。だから織田は強いというのだ。
「将がいい故にだ」
「そういえば柴田勝家に佐久間信盛」
「滝川一益に丹羽長秀」
「他にも大勢おりますな」
「だからよ。尾張を瞬く間に統一したのだ」
そしてだ。宗滴はその尾張のことも話した。
「尾張はそれまで幾つもの家に分かれていたな」
「はい、織田家同士で」
「大きく分けて二つでした」
「無論その下でも色々とありました」
「それを瞬く間にしたのだ」
それを見てだ。宗滴は信長について話すのだった。
「あの者の力量は尋常なものではない」
「その一つにした尾張を見事に治めていますし」
「田畑も町も港も見違えるまでとか」
「堤や道もです」
実にだ。細かいところまで政を行っていることもだ。見る者には見えていた。そうしてものを見ていくとだ。信長はどうしてもなのだ。
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