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戦国異伝

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第三十七話 二つの砦その七


「四天王というらしい」
「松平四天王ですか」
「その者達もいると」
「これまでは主の松平元康だけが注目されておった」
 もっと言えばだ。松平家はそれだけ小さな存在でしかなかったのである。しかし今川家においてその名を知られるにつれてだ。彼等も知られるようになってきたというのだ。
「あの男も若いながら戦上手とのことだが」
「その家臣達もですか」
「戦に強いと」
「さて、戦い抜くのが楽しみになってきた」
 佐久間盛重の顔は笑顔であった。
「どうしようかのう」
「ははは、思う存分戦ってやりましょうぞ」
 木下がその口を大きく笑って言ってみせた。
「ここは是非」
「そうじゃな。ではやるとするか」
 最後に佐久間盛重が言ってであった。そのうえでだ。
 鷲津は戦う態勢に入った。遂に織田と今川の戦がはじまろうとしていた。
 今川が尾張に入ったと聞いて一人笑っている男がいた。それは誰かというとだ。
 越前の一乗谷館の場に彼はいた。公家風の格好をした頭の後ろがやけに出てだ。細い顔に頬、口髭に公家眉と髷の男だ。服も公家風で色は草色だ。この男がだ。
 笑いながらだ。己の前に居並ぶ者達に言うのであった。
「これで織田も終わりじゃな」
「そうですな。あの織田も」
「これで」
「織田なぞ滅びてしまえばよいのじゃ」
 その公家風の男は陽気に笑いながら言うのであった。
「所詮あの家は成り上がりの家よ」
「神主あがりのですな」
「守護の陪臣だった」
「そうじゃ。それに対して我が朝倉はじゃ」
 どうなのかと。男は言うのである。
「代々名家としてこの越前において力を持ってきた」
「それに対して尾張一国を治めるまでになるとは」
「身の程を知れというものですな」
「左様、しかしこれで織田も終わる」
 男のだ。いささか能天気な言葉はさらに続く。
「滅亡じゃ。今川がやってくれるわ」
「では我等をその有様をこの越前で見て」
「そうして楽しみますか」
「殿もそうされるのですな」
「その通りじゃ。この朝倉義景」
 己の名前をだ。ここで言うのだった。
「あのおおうつけの滅びる姿を見届けようぞ」
「そうですな。それでは今よりです」
「飲まれますか、酒を」
「そうされますか」
「そうじゃな。酒にじゃ」 
 それだけではないとだ。この男朝倉義景は言うのである。
 彼はだ。家臣達にこう命じた。
「舞楽じゃ」
「都のですな」
「それを楽しまれてですな」
「それと共に飲もうぞ」
 酒だけでなくだ。そういったものも楽しむというのである。
「ここはじゃ」
「わかりました。それでは」
「今より」
「ははは、これで尾張の織田が滅ぶ」
 義景はとにかくこのことをだ。心から喜んで話すのだった。
「善き哉善き哉」
 家臣達の殆んども同じだった。彼等もそうなると見ていた。しかしである。
 越前の中で一人だけ笑わない者がいた。それはだ。
 朝倉宗滴だった。彼は難しい顔でこう己の信頼する家臣達に述べるのだった。
「織田が負けると言われているがだ」
「それは違う」
「そうなのですか」
「織田は勝つ」
 断言だった。まさにだ。
「負ける筈がない」
「では殿の仰っていることは」
「当たらぬというのですか」
「残念だがそうだ」
 やはりここでも断言で答える宗滴だった。 
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