戦国異伝
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第三十三話 桶狭間の前にその七
「二万五千を相手にせんというのか」
「はい、今川は縦に長く進んできます」
「駿河からです」
「では。我等が相手にするのは」
「そうです、そのうちの僅かです」
「二万五千のうちのです」
こう話すのだった。明るい声でだ。
「確かに敵の先陣は強いですが」
「それでも。二万五千を一度に相手にはしません」
「では。陥ちんというのか」
「工夫が必要ですが」
「大丈夫です」
「そうであればいいのだがな」
今一つだ。浮かない顔で返す彼だった。
「少ないといってもだ。我々より多いのだぞ」
「ですから工夫をします」
「それも色々とです」
「ふむ。では猿よ」
佐久間盛重は木下のその顔を見ながら問うた。彼のその猿そのものの数をだ。
「そなた一体どういう工夫するのじゃ」
「まず堀を深くし」
「さらにじゃな」
「そして壁を。二重にしまして」
「あれか。千早の城じゃな」
楠正成である。それではというのだ。
「それをするのか」
「左様です。落とし穴も掘っておき」
「して煮えたぎった油も用意しておくか」
「左様です。それに加えて」
さらにであった。
「肥溜めからもです」
「糞やら小便もか」
「はい、それもかけてやりましょう」
「とにかく何でも使うのじゃな」
「石を投げてもいいですし丸太もです」
「とにかく何でもじゃな」
「そうです。何でも使って防ぐべきです」
木下は話していく。とにかく何でも使って敵を防ぐというのだ。
そしてだ。それだけでなくだった。木下は今度は蜂須賀を見る。彼もいるのだ。
「小六殿もまたです」
「わしか」
「その忍の力を使うのです」
彼が忍であることをだ。頭に入れての言葉だった。
「外に出て敵を撹乱するのです」
「そういえば駿河や三河には忍の者は少ないのう」
「だからです。あちらにない駒をこちらが使うのです」
「それはかなり大きいな」
「だからこそ。小六殿は大事です」
他ならぬ彼はというのである。
「戦は篭もってばかりするものではありませんから」
「では思う存分暴れてやるぞ」
「そうして下さい。そうすればです」
今度は木下秀長が話す。彼は今もいるのだ。
「敵は我等に引き付けられます」
「兵を向けて来るな」
「はい。ただ」
ここまで話してだった。木下秀長は首を傾げさせた。そうしてそのうえでだ。彼は蜂須賀、そして佐久間盛重に対してこう話す。
「それでも殿のお考えはわかりませぬ」
「わしもです」
兄の彼もだというのである。
「果たしてどう御考えなのか」
「それじゃな。わし等は今死地におる」
佐久間盛重が話す。彼が言うことはまさにその通りだった。
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