魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
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第90話 最強VS最凶
「おらおらおら!!」
大きな斧を回転させながら楽しそうにマリアージュ達を蹴散らすバルトマン。
「何だ?この程度か?良くなったのは死ななくなっただけか?」
砲撃を集中させるが、バルトマンに届くことはない。
「ははっ!!バッタもんだった聖王の鎧も更に固くなった見てえだな!!それに………」
斧に魔力を込める。
斧はそのまま電気をおびたままどんどん巨大になっていく。
「この左胸の玉はすげえな!!力がどんどん溢れてくる!!これなら誰にだって負けやしねえ!!ボルティックブレイカー!!」
そのまま降り下ろし、貯めた魔力を一気に放出した。
巨大な魔力はマリアージュ達を飲み込み、射線上にいた全ての物を消失させた。
『推定魔力SSオーバー………これは予想外の結果だね………』
「ハハハハハハハハ!!!」
再召喚されるマリアージュをどんどん消していくバルトマン。
『それに不死身の筈のマリアージュもコアが破壊されると消えてしまうのは私のミスだね。………まあ瞬間再生やイクスヴェリアのコア複製が早いためそんなに問題ないが………』
すぐに消されるマリアージュ達だが、それと同じくらいのスピードでコアを複製するイクスヴェリア。
戦闘は膠着状態になっていた………
「何だあれは!?」
トレーラーの場所へと向かっていた神崎は、途中強大な魔力反応を感じ、その場へ行くと、大きな斧を持った男が向かってくる女性達を虐殺していた。
「くっ!?ジルディスブレイドスタイル!」
神崎は近戦スタイルの大剣を展開し、バルトマンに剣の先を向けた。
「スマッシャースレイブ、行け!!」
そのまま魔力を大剣に集中し、突き出すように発射した。
「ん?」
バルトマンが違和感に気がついた時には矢の様な魔力弾が迫ってきていた。
「ふん」
バルトマンにとって、避けるのは訳ないのだが、自身の聖王の鎧があってか、別に動かなかった。
しかしそれがミスだった。
「何!?」
その魔力弾は聖王の鎧を破るまではいかなかったが、鎧の防御力を超えてダメージを与えた。
「何だ!?ただの魔力弾の筈なのにSランクはあったぞ!?」
「………バルトマン・ゲーハルト」
驚いたバルトマンの前に神崎が降りる。
「貴様は………」
「神崎大悟、本局武装隊所属の魔導師だ。あなたを逮捕する」
今、此処に最強の魔導師と最凶の戦闘狂が対峙した………
「何だこれは!?」
『零治君!』
本局から少し離れた場所に居た零治にスカリエッティから連絡が入った。
「どうしたんだスカさん?」
『あの女性達が何者か分かったよ。あれは冥王イクスヴェリアが作り出したマリアージュだよ』
「マリアージュ?」
どこかで聞いた事あるような名前に零治は首をかしげる。
冥王と言われ、最初に浮かんだのが星の顔だったのは秘密だ。
「でも冥王イクスヴェリアってもしかして冥王教団の崇拝してる王様の事か?って事は随分前の人物なんじゃ………」
『それが違うみたいなんだよ。どうやら冥王はその能力と相対して、とても優しい性格だったらしい。屍兵器という自分の能力に嫌になって長い眠りに付いた所をシャイデ君に見つけられたんだと思う』
「シャイデと一緒に居るって何で分かるんだ?」
『加奈君が見つけたらしくてね。ただ逃げられたみたいだけど』
「そうか………」
シャイデを見つけた事よりも協力してくれた事に安心する零治。
実を言うと最後まで手伝ってくれないのかと思っていたからだ。
「っとそれとスカさん、あいつら攻撃しても修復してるみたいなんだが、あれは一体………」
『………恐らく正真正銘の不死身の兵士を作りだしたんだよ、クレイン・アルゲイルが』
「不死身の兵士!?まさか………」
『そのまさかだよ、アイツはそれをやってのけたのさ』
それを聞いた零治は暫くその場を動く事が出来なかった。
あの時の事件は全て解決したと思っていたのに、まさか繋がっていて、しかも最悪な結果になっているとは………
「こんな時先輩が居てくれれば………」
『零治君………』
スカリエッティが心配そうな顔で零治を見つめる。
暫く俯いていた零治だが、首を振って顔を上げる。
「………いや、違うな。いつまでも先輩に頼って、そんなんじゃ先輩に会わす顔もないや。それについさっき先輩に言ってきたばかりだってのに………言ったこと位はやり通さなきゃな」
『零治君』
「スカさん、この世に絶対なんてあるはず無い。あのマリアージュの弱点を調べてくれ。俺は原因を何とかする。それと街にまだ居る皆に何とか被害が出ないように奮闘するように連絡してくれ」
『分かった、零治君も気を付けて』
そう言ってスカリエッティとの通信が切れた。
「さて、行くか………」
「「「レイ」」」
行こうとした時、零治に声をかけた人物がいた。
「お前等………」
声をかけてきたのは星、ライ夜美の3人。
「僕達を忘れちゃダメだよ」
「そうだぞ当然我等も一緒だ。約束を忘れた訳じゃなかろうな?」
「私達も一緒に戦いますよ」
そんな3人を言葉に零治に自然と笑みが溢れた。
「………じゃあ行くか、シャイデを絶望から助けに!!」
零治達4人は大きな魔力反応があった場所へと向かった………
「ぎゃははははは!!いいぜいいぜ!!こんなに楽しい戦いはウォーレン以来だ!!」
斧と大剣が交差する。
ただし、斧が圧倒的に手数が多い。
今、神崎とバルトマンが1対1で戦っている。マリアージュ達は静かに2人の戦いを見ていた。
シャイデがこの場にいることに驚いた神崎であったが、それ以前にバルトマンの危険性や、あの謎の女の子の方が優先事項であった。
「くっ!?」
「おいおいおいおい、こんなものか?高魔力魔導師よ!!」
一瞬で魔力を斧に込め、吹っ飛ばすバルトマン。
神崎は止めるのに精一杯になってしまっている。
「くそっ!?これが経験の差か!?」
『マスター、次来ます!』
「ボルティックシューター!!」
雷の槍が神崎に迫る。
「バレットスタイル!」
『イエスマスター!!』
神崎の大剣が双銃に代わり、魔力弾で相手の雷の槍を相殺する。
「ほう?デバイスが変わるのか?面白い、もっとお前の力を見せてみろ!!」
今度は斧に魔力を集中していく。
『ジルディス!!』
「ボルティックブレイカー!!」
「アストラルブラスター!!」
神崎の双銃それぞれの魔力を合わせ、2つの合わさった砲撃魔法が、バルトマンの放った砲撃魔法とぶつかる。
「ぐっ………魔力だったら負けるはずが無いのに………」
「ボルティックレーザー!!」
神崎の後ろから突如、レーザーの様な砲撃魔法が襲う。
「がっ!?」
「バカめ!!!」
攻撃に怯んだ瞬間、バルトマンの砲撃魔法が、神崎の攻撃を完全に打ち消し、飲み込んだ。
「うあああああああああ!!」
そのまま吹き飛ばされる神崎。
「確かにこりゃ使えるなウォーレン。消えたと思わせたスフィアによる遠隔操作。以前の俺ならこんな手を使うこと自体絶対に認めなかっただろうが………しかしあんなもんか、確かに高魔力保有者だったが、戦闘が甘い。魔力だけに頼ってきたからこうなる」
そう言うバルトマン。当然神崎の返事は無い。
「まだだ、まだ疼く………もっと、もっとだ………もっと殺しあいてえ!!!」
叫ぶバルトマン、その姿は血に飢えた獣そのものだった。
「………オメガ………ブラスター」
そんなバルトマンに巨大な砲撃魔法が襲う。
「ほぅ………」
しかし斧を上に構えて巨大な砲撃魔法の前に構える。
「雷獄瞬殺、ジェノサイドブレイカー!!!」
思いっきり振り下ろした斧から神崎の砲撃魔法よりも大きい斬撃が飛ぶ。
その斬撃は神崎の砲撃魔法をまっぷたつにし、そのまま神崎に向かっていく。
「くそ………ここまでか………」
完全にチャージ出来なかったのもあるが、一番の原因はダメージによるものが大きい。
それを分かっていながら撃った自身の遠距離最強魔法は打ち消され、もう為すすべが無かった。
「俺は変わった筈なのに………」
そう言い残し、神崎は巨大な斬撃に飲み込まれた………
しかしバルトマンの攻撃は突如展開したバリアによって阻まれた。
「ほう、あれを受けて無傷とはな………やるな嬢ちゃん」
「あなたがバルトマン………」
そう呟いたのは加奈。加奈がこっちにやって来ていた。
あの場に再び、マリアージュが現れたが、あの場をキリエ達に任せた加奈はシャイデを追って一人で此処にたどり着いた。
そして来てみたら神崎に巨大な砲撃魔法が迫っていたので、咄嗟にフォースフィールドを張ったのだった。フォースフィールドは見事に相手の攻撃に耐えたのだった。
「俺を知ってるのか?光栄だね」
そんな言葉を無視して加奈は神崎に近づいていく。
「はは、やっぱり………加奈も魔導師だったんだ………」
息も絶え絶えながら嬉しそうに言う神崎。
「喋らないで。………聖なる光よ此処に、ハートレスサークル」
光の円から受ける祝福で神崎の傷が癒されていく。
「これは………ありがとう加奈!!」
「だけど魔力は回復されないから気を付けてね」
「大丈夫、魔力だけなら誰にも負けないくらいあるから」
そう言って立ち上がり、再び大剣を展開し、構える。
「加奈、詳しい話はともかく、協力してくれないか?俺一人じゃアイツの相手は無理だ………」
「私もあの男だけは許せない事があるから協力するわ。ただし私は後方支援しか出来ないからクロスレンジは任せるわね」
「うん、任せるよ」
話合いを終え、前に出る神崎。
「もういいのか?」
「ああ、今度は前みたいにはいかない」
「そうか、そいつは楽しみだな………」
最強対最凶の戦いは2ラウンド目に突入した………
「くそっ!?何だコイツら!!」
ミズチブレードで斬り裂いても斬り裂いてもキリが無い。
さっきまでは爆発している彼女達が突如爆発せずにダメージを瞬間修復するようになった。
これじゃあまるで………
「不死身の兵士じゃないか!!」
ギンガとスバルは体を合わせて、建物を背に、小さくなっている。
それを守るように、桐谷は一人で複数の相手をしていた。
「ぐっ!?」
遠くから撃ってきた砲撃が肩をかすめる。
それに合わせるように片手剣を持ったマリアージュが桐谷を襲う。
「烈火刃!!」
刃の魔力弾を飛ばし、爆発させ、何とか軌道を逸らす事に成功したが、脇腹と右太ももを剣がかすめる。
『マスター、私にチェンジを!!セレンじゃ機動力を活かせず戦うなんて無謀過ぎます!!』
「くそっ、出来ればここでなりたくは無かったんだが………仕方がないか、レミエル!!」
『はい、セットアップ!!』
桐谷のバリアジャケットが角がある赤い装甲に変わる。
「うわあ!!」
こんな危険な状態であるのにスバルの目はキラキラ光っていた。
『魔力弾でいきますよ、マスター』
「クレイモア、いけ!!」
両肩にあるスラスターが開き、そこから広範囲に魔力弾が飛び散った。
一気に向かってくるマリアージュ達は大量の魔力弾を避けることが出来ず、全員ダメージを受ける。
「ん?あれは?」
一瞬で修復する中で相手の左胸に小さい丸い玉があることに気がついた。
「もしかしてあれが………」
『マスター、来ます!!』
別の方向から向かってくる槍を持ったマリアージュ。
そのまま槍を突き刺すが、赤い装甲の前に弾かれ、貫く事が出来なかった。
「よし、そこだ!!」
『ステーク、行きます!!』
右腕のステークが相手の左胸を貫く。
『マスター、駄目です!!』
「ちぃ!?」
桐谷はそのままクレイモアを発射。
近距離のクレイモアによりさっき放ったクレイモアよりも確実に直撃した。
「ぎぎ………」
それにより吹き飛ぶマリアージュ。
そのまま動かなくなり消えていった。
「再生しない………?」
『やっぱりあの玉みたいな物があの女性のコアだったんじゃないですか?』
「そうだとしたら勝機はある!」
向かってきたマリアージュの斧を左腕で受け止め、弾いた後に右腕のステークで左胸を貫く。
「とった!!」
桐谷の声と共にマリアージュは消える。
「よし、一人撃破!!」
『マスター、この調子で………』
レミエルがそう言った瞬間、前に近距離クレイモアで倒したマリアージュの場所に一つの玉が浮かび上がった。
「あれは………まさか!?」
桐谷の予感通り、その玉を中心にマリアージュが一体現れた。
「これは一旦あの子達を送り届けてからの方がよさそうだな………」
桐谷は後ろに居る2人の女の子を見てそう呟いた………
「はああああ!!」
大剣の先をバルトマンに向け、そのまま突撃する。
「バカか!?また同じ事を………」
「フェアリー!!」
「なっ!?」
フェアリー達によるバインドで、動きを一瞬止められるバルトマン。
直ぐに引きちぎるが、神崎の突撃を完全に止める事は出来なかった。
「くっ!?この………!!」
飛んでいるフェアリーを斧で消し去るバルトマン。
しかしその隙を神崎は見逃さない。
「でやあ!!」
直ぐ様、神崎が追撃に移る。
大剣を横薙ぎに振り、斬り裂く。
「くっ!?」
擬似聖王の鎧を着けているバルトマンに大きなダメージは通らなかったものの、それでもダメージを受けた。
「まだまだ!!ソニックスラッシュ!!」
魔力による強化で大剣を高速で振る神崎。
「ブリッツアサルト!!」
バルトマンもそれに合わせるかのように体全体に電気が走る。
高速の剣と斧がぶつかる。
「何て速さなの………」
フェアリーで援護しようにも速すぎて加奈にはどうすることも出来なかった。
同じスピード同士のぶつかり合い。
勝負を決めるのはパワーと経験。
「くっ!?」
「何だ?こんなもんか?もっと気張れよ!!」
更にスピードが増すバルトマン。
「ソニックアクション!!」
負けじと神崎もソニックムーブをしながら大剣を振るう。
しかしそれでもバルトマンとの戦いに優勢にはならなかった。
「ぐはっ!?」
バルトマンの蹴りが腹に決まり、吹っ飛ばされる神崎。
「神崎!!」
加奈が飛んできた神崎を受け止めるが、バルトマンはその隙を見逃さなかった。
「ボルティックブレイカー!!」
斧に込められた魔力を一気に放出したバルトマン。
「フォースフィールド!」
しかし加奈の対応も速かった。
直ぐ様フォースフィールドを張って、バルトマンの攻撃を防ぐ加奈。
「本当に便利な魔法だな………だが、終わりだ」
フィールドが消えると目の前にはバルトマンが。
神崎を蹴り、別の場所にやってから、斧を上に上げ、今にも加奈に斬りかかろうとしていた。
「か、加奈!!」
神崎が立ち上がり受け止めようとするが、
「お前はもう少し寝てろ!!」
スフィアによる攻撃で動きを止められる。
「くっ!?加奈!!」
「じゃあ死ね」
加奈はその場から硬直して動けない。
無情にも斧は加奈を真っ二つにするように降り下ろされるが………
斧が降り下ろされる前にバルトマンを砲撃魔法が飲み込んだ………
「一体何が………」
少し離れた場所で何とか立ち上がろうとしていた神崎は砲撃魔法が飛んできた方向を見る。
そこには黒い装甲に包まれた魔導師とその回りに3人の女の子がいた。
「兄さん………」
「ギリギリ間に合ったな………そして初めましてだな神崎」
零治は神崎に手を貸して立たせて上げた。
そして直ぐに零治は神崎に耳打ちし始めた。
「悪いな耳打ちで、念話だと誰かに盗聴されそうだからな」
「黒の亡霊………零治の事だったんだな。そしてその後ろの子達は星さん達か………」
「ああ、隠してて済まん。それと出来ればこれからも秘密にして欲しいんだけど………」
「管理局か?」
「ああ。それと、もう隠しててもしょうがないから言うけど、俺と加奈は転生者だ」
「まあブラックサレナに似てるからそうだとは思ったけど………って事は加藤も」
「ああ」
それを聞いて何とも言えない顔で唸る神崎。
「レイ、何の話ですか?」
「ちょっと男同士の話を、それより気を付けろよ、まだアイツはピンピンしている」
「その通りだ」
零治の砲撃魔法で巻き起こった爆発が晴れ、その中心には腕組みして仁王立ちするバルトマンの姿があった。
「久しぶりだな黒の亡霊。後ろの女達はお前の女か?」
「俺の大事な家族だよバルトマン。先輩がお前に殺された今、代わりに俺がお前を止める」
そう言うと不機嫌そうな顔をするバルトマン。
「全く、お前もか………俺は奴に負けたんだ、何度も蒸し返すんじゃねえ!」
「何だって!?」
バルトマンからそう言われて零治含め、星達3人も驚く。
「じゃああの仮説が正しいって事なのか!?」
「何の仮説かは知らねえが、あそこに転がってる首の男がウォーレンを殺したのは間違いないぜ」
そう言ってバルトマンが指差した方向には体と首が離れている死体がいた。
「ひぃ!?」
星は小さく叫び声を上げ、俺に隠れるようにくっついてきた。
妖怪と仲が良いライでさえ、少し顔が青い。
意外に冷静だったのは夜美だった。
「エリット一等空尉!?」
「エリットってエース・オブ・エースのか?」
神崎の驚いた声に夜美が質問する。
「あ、ああ………」
今まで模擬戦などで実際にエリットの実力を見たことがない神崎はなのはと同レベルかそれより少し低めだと思っていたので、あんな状態になっているエリットが信じられなかった。
「滑稽だったぜ、最後まで逃げ腰で後ずさりしてさ………あんな奴がエース・オブ・エースだったとは………管理局ももう終わりだな」
「そんな奴に先輩が………」
「レイ………」
「大丈夫だ、俺は大丈夫だ………」
零治にくっついていた星が心配そうに零治に話しかけて来たので、平然を装う零治。
そんな零治を見て、感づいているのだろうが、星は何も言わずに零治から手を離した。
「シャイデ………」
零治は次に座り込んでいるシャイデに話しかける。
シャイデは抜け殻のようにただそこに居た。
目は暗く、生きる気力を感じない。
「零治……星……ライ……夜美……」
「何してんだアンタは………!!」
零治はそのままシャイデに近づき、思いっきりビンタした。
その勢いで倒れるシャイデ。ビンタされたのに無反応だった。
「こんなに大勢の人に迷惑をかけて………先輩がこんな事を望む訳無いだろうが!!」
「そうね………それでもウォーレンを殺した男を私の手で殺したかった………例えそのためにどんな事を起こしても………なのに………」
首なし死体を見つめるシャイデ。
「もう良いわ………もう未練も何もない………零治、私を殺して」
零治に近づき、すがる様にように言う。
「「「シャイデ………」」」
星達3人は悲しそうにシャイデを見る。ライなんて今にでも泣きそうだ。
事実、俺もこんな姿になるとは思っていなかった。
今までのシャイデを見ていて、自分で吹っ切ったものだと思っていた。
なので、先ず仇討ちに出たこと自体驚いていたのに、まさかこんな姿になるなんて………
「情けねえ、情けねえよ………先輩の好きだったシャイデはこんな人じゃなかったのによ………」
「レイ………?」
いきなりの零治の言葉に星は零治の顔を覗き込む。
「先輩に聞いた事があるんだ………先輩はシャイデの何処に惚れたんだ?って………」
「………」
恐らく誰にも言った事の無い話。
シャイデも聞いた事が無かったのか、顔を上げて俺を見た。
「先輩はさ、最初にシャイデの『心』に惚れたって言ったんだ。『俺と境遇は似てるけど、俺にはランスター兄妹がいた。だけどシャイデはずっと1人で生きてきた。そんな辛い状況にも関わらず、執務官にも就いて、人のために頑張っていた………気高くてそして優しい綺麗な女性なんだ。だから俺も心から人の為にって思ったんだ』って。だけど今のアンタはどうだ?全く違うじゃないか………」
「違う………執務官に着いたのは親の仇の為………私はそんな女じゃ………」
「いいや、先輩は間違っちゃいない。だって星達にとても優しかったじゃないか。星達だけじゃない。俺にもそうだし、困ったことがあったら必ず協力してくれていた」
「それは………」
「だからそんなシャイデが俺達は大好きだし、大切な家族なんだ」
「零治………」
「だからもう何も無いなんて言うなよ………先輩が好きになった人なんだからこれからも胸を張って気高く優しい人でいてくれ………」
「レイ………」
夜美が近づいてそっとハンカチを渡してくれた。
気が付けば俺は涙を流していた。
全く、最近涙もろいな………
「バカ、自分の涙を拭けよ。俺は大丈夫だから………」
「良いんだ、我は2枚持っているからな」
そう言って無理やりハンカチを持たせる夜美。
全く気を遣いやがって………
「………だから一緒に帰ろうシャイデ。この事件を終わらせて全て解決させて………そしてみんなで先輩に挨拶しよう」
「!!」
それを聞いたシャイデは声を出さず、空を見て、涙を流し始めた。
まるで天国にいる先輩に懺悔しているように………
そして顔を降ろした時にはシャイデはいつものシャイデに戻っていた。
「ごめんなさいみんな………私どうかしていたわ………昔とは違ってもう私の周りには大切なものがこんなにあったのに………」
「シャイデ〜!!」
泣きながらライがシャイデに抱きつく。
ライの後を追う様に星と夜美も抱きついた。
「ごめんね3人共………」
「良いです、家族ですから助け合うのは当然なんです………」
「だが、もう隠し事は止めてくれ………」
「もうどこにも行っちゃやだよ………」
「大丈夫、もうこんな事考え無いから………」
その姿は母親と3人の娘の姿にしか見えなかった。
『全く………とんだ茶番だったね………まさか復讐に燃えていたシャイデ・ミナートがこうもあっさりと改心するなんてね………』
そう言って現れた1枚のディスプレイ。
そこには一人の男が写っていた。
「お前がクレイン・アルゲイル………」
『そう、初めましてだね黒の亡霊君………』
画面に写る男、クレイン・アルゲイルは嫌な薄ら笑いをしながら自己紹介をした………
「デュアル・スターライトブレイカー」
2重に重なりあった集束魔法が、マリアージュ達を飲み込んだ。
「うわぁ………」
「これは………」
後ろで見ていた小さな赤い妖精と大きな赤い装甲で覆われた男がつい言葉をこぼした。
あの後、1人孤軍奮闘していた桐谷に思わぬ助っ人が現れた。
小さな女の子とその女の子よりも小さな赤い妖精。
小さな女の子は直ぐにマリアージュ達が集まっていた場所に降り、
「闇に染まれ、デアボリック・エミッション」
球体を発生させ、マリアージュ達を飲み込んだ………
「で、こっちの方向で合ってるのか?」
「合ってます。私にはレイの居場所は何処にいたって分かりますから」
「あながち出来そうだから怖えな………」
であの後、青い2人の少女は近くにやって来た魔導師に任せ、俺達は零治が居るであろう場所に向かっていた。
というか、置いていった形だが………
「それにしてもデバイス無しで良くあんな魔法を………」
「デバイス?あんな小道具私には必要無いです」
「小道具………」
アギトが微妙な顔をしてるが、優理は話を続ける。
「エグザミアなどの機能は消え去ってますが、今の私はあの時程ではありませんが宵の書が集めたデータの魔法を使うことが出来るようです。それに魔力も結構。恐らくSS以上はありますね」
それを聞いて驚く2人。
それと同時に危機感を感じる。
「優理、もう余り力を使いすぎるな」
「何故です?私の力があればあのクズ女達も一瞬で………」
「零治が悲しむことになってもか?」
「分かりました」
「うわぁ………単純」
「構いません、私はレイが全てですから」
それを聞いて安心する桐谷。
(全てが終わったら一度話し合うべきかもな………)
そんな事を思いながら3人は零治達の所へ向かった………
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