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魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者

作者:blueocean
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第89話 ミッド襲撃

「君が黒の亡霊か?」
「はい。初めましてティーダ・ランスターさん、俺は有栖零治と言います」

皆に協力を仰いだ次の日、朝早くから皆、それぞれ動き出した。
目的はシャイデの発見と即時確保。
アイツの狙いがバルトマンならミッドに必ずいる筈。
今日の15時には本局へアイツが着くだろうからそれまでに見つけて止めさせないといけない。

とりあえず4組に別れてもらい、ドゥーエさん、トーレさん、チンク、ディエチに案内してもらいながら、心当たりのある場所を片っ端から探してもらっている。

ちなみにキャロ、ルーテシアにはとりあえず学校に行ってもらっている。ゼストさんとメガーヌさんには2人の面倒を。小学校は中学校と違って休みじゃないからな。

そんな中俺は、昨日の内にティーダさんに連絡して、先輩の墓に案内してもらえる様に頼んだ。
ミッドの外れにある小さな墓地。
ここに先輩が眠っているらしい。

何故らしいなのかというと、俺とシャイデは先輩の葬式に出ていない。
当時の俺は死んだって事実を心のどこかで否定したかったんだと思う。あの時は無我夢中で戦いに明け暮れていた。
シャイデの心中は未だに分からない。

「ここが………」
「そう、ウォーレンが眠っている場所さ」

墓石には『ウォーレン・アレストここに眠る』とかかれている。

「先輩、遅れてごめん………本当はまだ来るつもりは無かったんだけど、シャイデの事を知らせておこうと思ってね………」

俺は静かに先輩の墓地に話しかける。

「シャイデはどんな手段か分からないけど先輩の仇を討とうとしてる。いや、もしかしたら死ぬつもりなのかもしれない。………シャイデは俺達の母親代わりの人だ。星だって、ライだって、夜美だって、フェリアだって、キャロだって、アギトだって、優理は………微妙だけど、それに他のみんなもシャイデの為に動いてくれてる。だからどんなことがあってもシャイデを止めてみせる。そしてそれと同時に先輩との約束を守るよ………」

そう言いきって俺は立ち上がり、ティーダさんの方を向いた。

「今日はお付き合いいただきありがとうございます」

「………ウォーレンは良い相棒を持ったな………葬式の時は薄情な奴だと思っていたけど、こちらの早とちりだったな」

「いや、行かなかったのは事実ですから………今日は本当にありがとうございました」

そう言って俺は歩き出す。

「行くのかい?」

「はい、一刻も早く見つけなくちゃいけないので………」

そう言い残して歩き出すと、

「………零治君!!」

ティーダさんに呼ばれたので、振り向くとカードが投げられた。
それを上手くキャッチし、カードを見る。

「これはデバイスですか?」

「ああ、あの時渡すはずだったデバイス、ハーディアスだ。使うか分からないけど君が持っていた方が良いだろう」

「………ありがとうございます!!」

俺はお礼を言ってその場を後にした………














「いよいよだな………」

時刻は14時半。
警備をしている他の魔導師達にも緊張の色が見える。

まあ無理もない。相手は魔導師を大量虐殺した張本人、バルトマン・ゲーハルトなのだから………
事実俺自身も緊張している。
今までそんな相手と戦った事なんて無いからな。

そんなことを思っているとこっちに真っ直ぐ向かってくる長身の女性がいた。

「今ってここは関係者以外立ち入り禁止になっていたよな?」

「はい、その筈ですが………」

「全く、門番は何を………」

そこまで言った瞬間、女は自身の両腕に片手剣を展開してきて近くの魔導師に斬りかかってきた。

「攻撃!?皆、戦闘配備!!」

神崎の号令と共に武装隊はデバイスを構える。

「遠距離から集中砲撃をかける………射て!!」

クロスレンジで戦っている魔導師が下がった瞬間、神崎の号令と共に、一斉に魔力弾が女性に襲う。
全て直撃し、女性はその場で倒れた。

「よし、拘束して奥に………」

神崎の命令と共に魔導師の2人が女性に近づいた瞬間、






大きな爆発がその場で起きた。






「なっ!?一体何があった!?」

「じょ、女性が爆発しました!!近づいた2人が巻き込まれ、重傷です!!」

「神崎、何があった!?」

「隊長!今、あそこで………」

神崎が言った先には集団となったさっきの女性が歩いてきていた………

「これは………!?」

「隊長、神崎一等空佐、大変です!!町にも爆発する女性が!!」

「何だと!?」

「一体何が起こってるんだ………?」

迫ってくる大群を見つめ、神崎は呟いた………









「星!!」

「くっ!?」

斧をルシフェリオンで受け止め、右に流し、

「ルベライト!」

バインドで拘束した。

「光翼斬!」

直ぐ様ライの青い魔力刃が頭に突き刺さる。

「ああああああ!!!」

絶叫と共に爆発する女。

「また爆発………」
「一体どうなってるの!?」

今までいきなり襲ってきた女性達と戦っていた星とライ。
襲ってきた女性達を全て撃退することに成功したのだが、その全員が近距離だったら巻き込まれるほどの爆発を起こして消えていた。

2人は下のミッドの町を見る。
地上では未だに陸の魔導師達が懸命に市民を守りながら戦っている。

「ライ、星、ここにいたのか」

「あっ、夜美!!レイ居た?」

そんな中、夜美が星とライの元へ飛んできた。

「どうでした?」

「管理局の方でも同じようになっていた………一体何が起こっているのだ?」

「分からないです………」

夜美の問いに険しい顔で答える星。
既に他の所でも町の中で戦闘があちこち起きている。

「これ、本当にシャイデが起こしてる事なの?」

「分かりません、ですけどこの状態をほおっておくわけいきませんね………」

「そうだな」
「だね」

3人は顔を見合わせ頷き、地上に降りて今だ被害を及ぼしてる相手に向かったのだった………









「スピニングターン!」

エリアルボードに乗りながら横に回転し、向かってきた女を弾き飛ばすウェンディ。
相手は公園の茂みに槍を持ったまま突っ込んでいった。

「ウェンディ!戦闘不能にはしないで!!しちゃうと爆発しちゃうから!!」

「簡単に言ってくれるっスね!!」

右後方から斬りかかってきた女を上に一回転して避け、そのままボードの先で吹っ飛ばした。

「セイン、まだっスか!?」

「………OK!!みんな逃げ出したよ!!」

「ならばこっちの勝ちっス!!ドクターに強化してもらったこのボード、エリアルボードスペック2の恐ろしさを見せてやるっス!!」

そう宣言するとエリアルボードの横から発射口の様な物が現れる。

「レーザーの雨、喰らえっス!!」

ウェンディの掛け声と共に、そこから細いレーザーが発射され、吹っ飛ばされた女二人に向かっていく。
2人は逃げようと2手に分かれるが、レーザーはお構い無しに2人を追尾、直撃した。

「あ………がが………」
「ぎ………ぎ………」

声にならない声を漏らし、爆発する2人。

「この人達って何なんだろう………?」

そんな2人を見ながらセインが呟く。
既にミッドの町では彼女達が暴れまわっており、それに対応するために出動した陸の魔導師達だが、元々人手不足な上に、本局の警備に出ている部隊もあるのでかなり人手不足であった。

「分からないっス………先ずはドクターに連絡を取るか、フェリア姉に連絡を取るべきじゃないっスか?」

「そうだね、取り敢えずドクターに聞いてみようか?」

セインとウェンディは取り敢えずスカリエッティに連絡を取ることにした………












「お姉ちゃん、怖いよ………」

「大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげるから………」

大勢の人が悲鳴を上げながら逃げる中、2人の女の子が家の前で座り込んでいた。

「おい、来たぞ!!」

逃げている男性の先には戦斧を持った女がこっちを見て近づいてくる。
そこには素早く陸の魔導師がやって来るが、戦斧によって意図も簡単に吹き飛ばされた。

「お姉ちゃん………」

「大丈夫、お姉ちゃんが守るから」

少し大人びている女の子、ギンガ・ナカジマはその場に妹のスバルを座らせ、自分は前に出てファイティングポーズをとる。

(まだ基礎だけしかかじってないけど、私がスバルを守らなきゃ………)

恐怖心からなのか、足が震える。
まだ11歳の女の子であるギンガはまだ実戦の経験がない。

(でもやらなきゃ、私がスバルを………)

しかし、相手はそんな相手でも手加減せず、真っ直ぐギンガに向かって突っ込んできた。

「ひっ!?」

その勢いに怯えたギンガは金縛りにあったように動けなくなった。

「お姉ちゃん!!」

スバルの声がギンガに届き、我に返った時には既に斧は振り上げられていた。

「あっ………」

気の抜けた声と共に、斧は真っ直ぐ振り下ろされた………







『ご主人様、ギリギリです』

「何とか間に合ったな………」

そんな声が聞こえ、ギンガは目を開けると、誰かに抱き寄せられていた。

「あなたは………?」

「ん?俺か?………まあ良いか。桐谷って言うんだ」

「桐谷………さん?」

『マスター良いんですか?』

「普通の子みたいだし大丈夫だよ。いいから奴を止めるぞ、セレン」

『イエスマスター』

ミズチブレードを展開し、構える桐谷。
相手が向かってくる前に、自分から殴りかかった。

「玄武剛弾!!」

タイミング良く、3連打を浴びせてから、蹴りで少し吹っ飛ばし、そのまま魔力弾を相手に集中する。
速く、流れるような攻撃に相手は追いつけず、為すすべもなく全て食らった。

「気を付けてください!その人は戦えなくなると爆発………」
「地斬疾空刀!」

下から斬り上げ、斬撃となった魔力刃が相手を空中に吹っ飛ばした。
空へ吹っ飛ばされた女性は、そのまま空で爆発した………

「よし!」

「凄い………」
「カッコいい!!」

さっきまで小さく縮こまっていた筈のスバルが、興奮が冷めないまま桐谷に向かってトテトテと近づいていった。

「お兄ちゃん、あれ何!?」

「あれ?………ああ、地斬疾空刀か?あれはこのミズチブレードに魔力を貯めて、斬撃として放出する技………って分かるか嬢ちゃん?」

「………要するに魔力で斬!って感じ?」

「………まあ良いやそれで」

諦めた桐谷はそれ以上説明するのを諦めた。
しかしスバルは嬉しそうに何度も桐谷の真似をする。

「あの………」

「ちっ、まだいるのか………」

ギンガが話しかけようとしたとき、桐谷の視線の先にはこっちに向かってくるさっきの女性が3人いた。

「何処かに隠れてろ、危ないぜ」

桐谷はそう言って向かってくる3人に突っ込んでいった………










「ディエチ、チャージは!?」

「もう少し待って………」

ナイフを操りながらフェリアが後ろにいるディエチに声を荒げながら叫ぶ。

「はああ!!」

トーレは前線で女性達を食い止めていた。
それもダメージを与えすぎないように………

3人がいる場所は大きなショッピングモールの入口。
中には逃げ遅れた人達が沢山居る。

そんな中、3人は女性達が中に入らないように、戦っていた。

「………よし、トーレ姉、チンク離れて!!」

ディエチの言葉で2人はディエチの所まで後退。
そしてディエチの所まで来た所で、

「ISヘヴィバレル!!」

チャージした砲撃を放った………

「!?これは………」

ディエチの砲撃が見えた空で戦っていた魔導師がこっちにやって来た。

「君達は一体………」

「えっと私達は………」

「ヴァ、ヴァルキリーズだ!!」

やって来た魔導師、ティーダ・ランスターにトーレが思いつきでそんな事を言ったのだった………









「ノーヴェ!!」

街の東地区、レジャー施設の多いこの場所で、ガンナックルを構えていたノーヴェが自分を呼んだ声の方を向いた。

「優理とアギト!!お前達トーレ姉と一緒にいたんじゃ無いのか?」

「それがトーレは爆発があったと時に1人で何処か行っちゃって………」

「置いてかれた………」

「ああ………」

容易に想像できる光景に妹のノーヴェは申し訳なく思った。

「でも2人で大丈夫だったのかよ!?」

「ああ、それは………」

「うん、とてもうるさかったけど全部消滅させてきたよ」

笑顔で言う優理だったが、その異常さに空気が重くなる。

「あの女達ダメージ与えると爆発するから跡形もなく消してきたよ」

「………マジ?」

「見てる私も信じられなかった………」

青い顔をするアギトにノーヴェはそれが嘘じゃないことを悟った。

「これで被害も減ったし、レイ、誉めてくれるよね?」

「「ウン、タブンネ………」」

そんな優理の前に2人はそう言うしか無かった………









「まさかあなたに最初に見つかるとはね………」

「私は1人で行動していたので、冷静に考えたらこの騒ぎに乗じて動くのが一番安全ですからもしかしたらと思って………」

ミッドの街の下。
下水道とは別に広い通路が存在していた。

そこには2人の女性と1人の女の子がいた。

「シャイデ先生、もう止めてください。復讐したって何にもなりませんよ!!」
「加奈、理屈じゃないのよ。それは好きな人がいるあなたには分かるでしょ?」

そう言われて加奈は黙ってしまう。
自分とシャイデを重ね合わせてしまったのか、心の中で同意してしまったのだ。

「零治に頼まれたんでしょうけど早くミッドから離れなさい、じゃないと巻き込まれるわよ」

「巻き込まれるって………」

「もうすぐミッドの街は崩壊するわ」

シャイデは淡々とそう言う。

「一体どういうことよ!?」

「あなたが知る必要は無いわ。あなたは今すぐにみんなを連れて帰れば良いの」

「………嫌です。兄さんじゃないけど私だって知り合いが誤った道を進もうとしてるのを無視する訳にはいきませんから………エタナド」

『セットアップ』

加奈が光に包まれ、エステルのようなお姫様チックな衣装と左手に盾を、右手に杖を持った姿で現れた。

「あなたを止めます」

そう言ってスフィアのフェアリーを3基シャイデに飛ばした。

「サークルバインド!」

シャイデを中心に円を描くように回ってバインドをかけるフェアリー達。

「リンス」

「はい、お母様」

小さい女の子が放ったバリアーみたいな膜により、バインドが弾かれる。しかもそれと同時にシャイデの前に5人の女性が現れる。

「私は行くわ。あなたはこの子達の相手でもしてなさい」

「シャイデ先生!!」

しかし現れた5人に道を塞がれ、先にいけない。

「邪魔よ、フェアリー!!」

フェアリーのオールレンジ攻撃をするも、地下ということもあり、展開していた3基は直ぐに落とされた。

「くっ!?オーガシールド!!」

迫ってきた2人の槍による突きをシールドではじき返す。

「きゃああ!!」

しかし、シールドを張ってない方向からの砲撃は防げず、相手からの砲撃を受けてしまった。

『マスター!!』
「大丈夫、私はまだやれる!」

しかし、シールドで弾いた2人が槍で再び突いてくる。

「フェアリー!!」

即座にスフィアを展開するが、槍にいとも簡単に貫かれ、消える。

「あっ………」
『マスター!!』

そんなエタナドの言葉も虚しく、二双の槍は加奈に迫っていく。
加奈は覚悟を決めて目を閉じた………











「隊長、提案があります」

「何だ!?くだらない事だったらぶん殴るぞ!」

背を合わせながら話す神崎と武装隊の隊長。
既に戦闘は混戦状態だが、何とか本局の手前で抑えている。

「俺のブラストスタイルの最大出力で敵を一掃します」

「………それはもしかして俺に囮をやれって事じゃないよな?」

「隊長は転移魔法得意じゃないですか………」

「いや、あんな大勢相手に出来るわけ無いだろ………」

「ですけど、このままじゃジリ貧ですよ………敵も減る気配が無いですし………」

「………はあ、分かった。だが違う作戦を思いついた。神崎、お前は………」

隊長の提案を聞いた神崎は直ぐ様、空高くヘ飛び上がった………









「あれ?痛みが………」

覚悟を決めた加奈だったが、一向に痛みが来ない。
恐る恐る目を開けると、目の前には赤い髪の女の子とピンクの髪の女の子が目の前に立っていた。

「危なかったわね」
「間に合って良かったです」

「アミタさんに………キリエさん………?」

「我等も居るぞ!」

声が聞こえたので、加奈が前方を見るとそこにはシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリが倒れてれる女達を踏んでこっちを見ていた。

「………ってあなた逹、直ぐに逃げなさい!!じゃないと爆発………」

「しませんよ、この人達のコアを直接貫けば爆発しないみたいなんです」

「どういう事ユーリ!?」

「あのね、僕が飛ばした光翼斬があの女の人の左胸にある丸い玉みたいな物に当たって、それに当たると爆発ぜずに溶けていったんだ!!ねえすごいでしょ!?」

「何を言っておるのだ、ただ単にがむしゃらに放っていただけではないか」

「へへ〜ん、ディアは僕に先起こされたから悔しいんだ〜」

「な、そんな事無いぞ!!それに我は王だ、ちゃんと王と呼べ!!」

「ディア、大人しくして下さい」

「シュテル、貴様まで………」

「でも名前で呼んで貰ったほうが嬉しくないですか?」

「言われてみれば確かに………」

ユーリに言われて納得するディアーチェ。
で、結局。

「我の事はディアで良いぞ2人共」

簡単に折れた………











『行けるか神崎?』

『OKです!!』

『よし、総員念話で伝えた場所まで10秒で逃げろ!!後方部隊は砲撃魔法で援護しながら敵をできるだけ足止めしろ!!』

隊長の指示の元、戦っていた管理局の魔導師が一斉に下がり始めた。
当然、敵も追いかけてくるが、後方に構えた魔導師の援護のおかげで何とか足止めする。

「行くぞジルディス」

『オメガブラスター、集束90%超えました、あと5秒で発射可能です』

「よし、フルドライブ」

『フルドライブ』

体全体に魔力が一気に高まる。
それと同時に大きなライフルのシリンダーから連続でカードリッジが飛び出す。

「よし、これで準備OKだ」

『集束、100%超えました』

「よし、オメガブラスター、発射!!!」

神崎の魔力と、フルドライブ。更にカードリッジと3連続で貯めた集束魔法が空高くから地上に向けて発射された………













「あれは………」

敵を斬りながら一人でシャイデを探していた零治は本局の方で感じたとてつもない魔力を感じ取った。

『なんですかこのとてつもない魔力は………』

「これは恐らく神崎か………」

『神崎ってあの転生者の………』

「ああ、SSSランクは伊達じゃないって事だな………」

『マスター………』

「本局へ行くぞ、奴も絶対にそっちにやって来る筈だ」

零治はその場から転移した………












神崎が放った集束魔法は地上にクレーターを作り、大勢いた女性達はひとり残らず消え去っていた。

『隊長、無事ですか?』

『………何とかな………だけど、重傷者も結構いる。神崎、悪いがバルトマンのトレーラーの確認を頼む。あっちの方はどうなってるか分からないからな………』

『分かりました。………けどここの守りは大丈夫ですか?』

『それは何とかする。あっちにはエース・オブ・エースもいるが、流石に大勢の相手だとキツイだろう』

『分かりました、今から向かいます』

神崎は念話で隊長と話し、その場を後にした………











「く、来るな!!」

後ずさりしながら離れようとする魔導師、エース・オブ・エースのエリット・クリースは向かってくる男に情けない声で叫ぶ。

バルトマンを乗せたトレーラーはいきなり現れた女性達による攻撃を受け、一時停止。
その内に自力で拘束を解いたバルトマンはあの時渡されたデバイスでその場に居る魔導師達を虐殺していた。

そして最後の生き残りがエース・オブ・エースのエリット・クリースだった。

「おいおい、仮りにもエース・オブ・エースだろお前………全く、今の管理局には屑しか居ねえのかよ」

自身と同じ程の斧を担いでる男は後ろに転がってる魔導師達を見ながら呟いた。

「ひぃぃ」

「もういいや、お前も死にな」

斧を振り上げ、まっぷたつにしようと下ろそうとした瞬間、

「待ちなさいバルトマン!!」

一人の女の子を連れた女性がその場に現れた。

「ん?何処かで見たような顔だが誰だったか?」

「ウォーレン・アレストの女って言えば分かるかしら?」

その言葉を聞いた瞬間バルトマンの顔が今まで見せなかった程の笑みを浮かべて笑い始めた。

「そうかそうか、ウォーレンの女か!!だったら奴も今いるのか!?」

そう言って辺りを見るバルトマン。
そんな様子はまるで、遊園地に遊びに来た子供の様だった。

「何を言ってるのよ!!ウォーレンを殺したくせに!!」

「俺が………殺した?」

「そうよ!!アンタが殺ったんでしょ!?」

それを聞いたバルトマンは再び大声で笑い始めた。

「な、何がおかしいのよ!!」

「おかしいに決まっているだろうが!!何で俺に敗北を与えた男が俺に殺されるんだ?」

それを聞いたシャイデは驚きを隠せなかったが、直ぐにある考えが頭に浮かんだ。

「もしかしてウォーレンは………」

そう呟いて見たのは静かに何処かへ逃げようとしたエリットだった。

「何だ!?何を見てる!!俺は実力でエース・オブ・エースに………」

「お前は………」

そう呟いたのはバルトマンだ。
顔を確認するようにまじまじと見る。

「そうか、うる覚えだが確かに覚えがある。あの後薄れてく意識の中で確かにお前みたいな管理局の魔導師があの場にいた」

「い、いや、お、お、俺じゃない!!」

「いや、お前だな。何となく分かるんだよ」

そう言ってバルトマンは凄いスピードで斧を一閃した。

「………あれ?」

「俺に負けをつけた男がもういないとはな………全く、楽しみが無くなっちまったぜ………ったくどうしてくれんだよ、この下がったテンションはよ!!」

「お、俺は………」

「ああ、お前はもういいわ。どうせ死んでるし」

「な、何………」

立ち上がろうとしたエリット。
しかしそれと同時に首がころっと取れてしまった。

「なんて事を………」

「あん?お前の愛した男を殺した男だぜ?同情する必要無いだろ?」

そう言われ、返す言葉がいシャイデ。
そんなシャイデをリンスと呼ばれた女の子だけが心配そうに見ていたのであった。

そんなリンスの気遣いも無駄に終わるように、段々シャイデも目から光が消えていく。
今まで少しずつ復讐の機会を伺い、準備してきたのに、それが一瞬であっという間に終わってしまった。

既にこのときからシャイデは自暴自棄になってしまっていた………

「リンス、もういいわ………復讐も今までの事も全てが無駄に終わった………もう生きるのも死ぬのもどうでもいいわ………バルトマン、私を殺して」

「嫌だね。そんな死んでいるのか分かんねえ女を殺してもつまらねえしな。それに俺にとっちゃこれからが本番なんだよ」

「それって………」
「あああああああああああああ!!!!!」

いきなり隣にいたリンスが大きな叫び声を上げて、浮かび上がる。
小さい女の子だったリンスが大人と同じ大きさになった。

「これは………」

『ご苦労さま、シャイデ・ミナート』

「クレイン………!!」

目の前にディスプレイが現れ、そこに現れたのはシャイデに協力していたクレインだった。

『君のおかげで、いいデータが取れてるよ。わざわざ爆発の威力を上げたのも正解だった。ミッドの街は大混乱だよ』

「そう、それは良かったわね」

『一つ誤算だったと言えばバルトマンと戦わない事かな?せっかくバルトマンに新たな力を与えたのに無駄になってしまった。結構復讐に燃える君とバルトマンの戦いも楽しみにしていたんだよ?それなのに全く………まあ仕方がない、本当は壊れそうだから使いたくなかったんだが、彼女の奥の手を使わせてもらう事にしたよ』

「………奥の手?」

そう呟きながらリンスの方を見るシャイデ。
リンスは助けを求めるようにシャイデを見ている。

『簡単に言えばレリックコアを使った強制強化。大人になったことには驚いたが、まあ表記上には問題無い』

「………リンスはどうなるの?」

『おや?もしかして愛情でも湧いたのかい?自身の復讐のために小さい女の子に洗脳までした君が?』

「!?」

苦しみながらも驚いた様な顔をするリンス。

「お母様………」

「………本当よ、私はあなたの本当の母じゃ無いわ」

「えっ!?」

「私はあなたを洗脳し、母親と思わせて、自分の復讐の手伝いをさせた女よ」

「お母様………」

『どうだい?今まで信じてきた人に裏切られた気分は?苦しいだろ?辛いだろ?』

「でも駄目………この力は………」

『さあ解放するんだ!そうすれば全てから解放されるよ?』

「で、でも………」

『君をもう大事に思ってくれる人なんて誰もいない。そんな世界壊して、優しい世界を作ろうじゃないか!!』

「優しい………世界………?」

『そう!誰も君も裏切らない幸せの世界。そこになら君の本当のお母さんもいるよ?』

「お………母様………?」

『さあ破壊するんだ!世界の全てを!!』

「ウワアアアアアアアア!!!!」

大きな絶叫と共に複数の小さな玉出現。
それは一瞬で女性になり、武器を構える。

『ふふふ、完成だ。死ぬことの無い不死身の兵士。冥王のマリアージュの進化、不死身の兵士達が!!』

その女性達が一斉にバルトマンに向かっていく。

『君も嬉しいだろ?不死身の兵士なら君も思う存分戦えるよ?』

「まあな。それに今の俺は退屈で仕方がない………どんなものか楽しませてもらうぞ!!」

そう言ってバルトマンは大きな戦斧を肩に担ぎ、不敵に笑った………  
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