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戦国異伝

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第百三話 鬼若子その七


「この差は大きいのう」
「しかもあの槍ですな」
「かなりの長さですな」
「我等の槍よりもまだ長いですな」
「それも相当に」
 数だけではなかった。今の織田家にあるのは。
 そしてだ。元親はその家臣達にまた言ったのである。その言った言葉は。
「ここで正面から行っても勝てぬわ」
「はい、間違いなく」
「それは出来ませぬな」
「到底」
「数だけではありませぬから」
「下手をすれば一撃ですな」
 一撃で倒されるというのだ。長曾我部軍の方がだ。
「容易な戦ではありませぬ」
「それでもですか」
「退かぬ」 
 この答えは変わらなかった。
「前に進むぞ」
「ではその陣はどうされますか」
「どういった布陣に」
「魚鱗じゃ」
 多数の敵に少数の敵に向かう場合の布陣だ。元親は兵法の布陣の決まりを的確に守っていた。そのうえでだった。
 実際にその魚鱗の陣にさせてだ。元親は己の軍勢を見てまた言った。
「これでよい。それではじゃ」
「全軍で、ですな」
「突き進みますか」
「正面からじゃ」
 一万の軍勢で十万を優に越える軍勢にだというのだ。
「攻めるぞ」
「そして生きる」
「そうされますか」
「魚は鶴に捕らえられる」
 元親はこんなことも言った。
「しかしじゃ」
「魚が生きることもできる」
「左様ですな」
「思う存分戦い生きる」
 そうするというのだ。
「ではよいな」
「我等皆生きましょうぞ」
「殿と共に」
「死ぬことは許さん」
 元親はこうも言う。
「よいな。生きよ」
「長曾我部家の為に」
「その為にも」
 こしうした話をしてだった。長曾我部の軍勢一万は紫の巨大な鉾になりその上で青い鶴に突き進んだ。そうしてだった。
 そのまま迫る。その彼等を見てだ。
 信長は確かな顔でこう周囲に述べた。
「来たぞ、正面からな
「無謀にも見えますな」
 毛利がこう言った。
「これは」
「一見するとじゃな」
「はい」
 毛利も伊達に信長に仕えている訳ではない。これ位のことを見抜く目は持っている。だからこうその信長に言うのだった。
「長曾我部は一見無謀に突き進んでいますが」
「しかしじゃ」
「まずあちらには騎馬隊がありませぬ」
 ほぼ全員が足軽だ。馬に乗っている者は僅かでその殆どの者が弓矢、そして槍を持ち前に突き進んでいるのだ。
 毛利はその足軽達を見てこう言った。
「進むのもよく」
「退くのもまた、な」
「すぐにできます」 
 そこが足軽と騎馬の違いだった。足軽はすぐに行く先を替えることができるのだ。
 その足軽達が突き進む。信長はそれを見ながら毛利にまた問うた。
「ではじゃ」
「はい、長曾我部はこのまま進みます」
「しかし我等には長槍がある」
 彼等の目の前の織田軍は丹羽が率いている。その彼の率いる足軽達はというと。 
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