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戦国異伝

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第百三話 鬼若子その六


「後ろから弓矢も使え」
「はい」
「それで奴等を止めてじゃ」
 そのうえだった。
「その間に鉄砲を使う」
「ではその鉄砲を使うのは」
「明智殿」
 名前を挙げたのは彼だった。
 その幕臣の彼を見てだ。信長はこう言った。
「頼めるだろうか」
「それがしが鉄砲隊で以て」
「敵を撃ってもらいたい」
「お言葉ですが」
 こう前置きしてだ。明智は信長に答えた。
「それがし幕臣ですが」
「しかしここにおられる」
 ならばだというのだ。
「戦ってもらえるか」
「それがしでよければ」
 これが明智の返事だった。
「そうさせて頂きます」
「それではな」
「はい。では鉄砲隊を」
「鉄砲の数は五百」
 信長はその数についても話した。
「頼むぞ」
「さむれば」
「鬼若子の力楽しみじゃ」
 信長は楽しげに笑いこうも言った。
「実にのう」
「実にですか」
「うむ、実にじゃ」 
 このことをだ。信長は実際に心から楽しみにしていた。
 言葉にもそれが出ていた、そのうえでだった。
「面白い戦になりそうじゃ」
「それで殿」
 今度信長に問うたのは蒲生だった。
「宜しいでしょうか」
「うむ、何じゃ」
「明智殿には五百の鉄砲を授けられますが」
「残りか」
「はい、それはどうされるのでしょうか」
「備えじゃ」
 信長は笑って蒲生のその問いに答えた。
「若し長曾我部が頑強ならばじゃ」
「その時にですか」
「その残りの鉄砲を使う」
 そうするというのだ。
「その時の備えじゃ」
「そうでしたか」
「ではじゃ」
 ここまで話してだった。そのうえで。
 信長は全軍に布陣を命じた。それは敵に対して大勢である場合の陣である鶴翼の陣だ。その陣で長曾我部の軍勢を待ち受けていた。
 その織田軍の陣を見て元親は言った。既に両軍は対峙している。
「見事じゃのう」
「織田軍の布陣がですか」
「それが」
「うむ、青い鶴じゃ」
 まさにその鶴翼の陣を見ての言葉だった。
「あれはな」
「その青い鶴をですか」
「今より」
「うむ、攻めるぞ」
 元親は敵を見て言っていく。見れば長曾我部の軍勢に馬は殆どない。足軽ばかりだ。
 それは織田軍も同じだった。しかしだった。
「あれはのう」
「鉄砲ですか」
「あれだけの鉄砲を持っているとは」
「千はありますな」
「対する我等は持っておらん」
 四国の土佐まではまだ行き届いていなかったのだ。三好はかなりの数のそれを持っていたがそれでもなのだ。 
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