戦国異伝
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第百話 浅井の活躍その七
「あの者達までおるとは」
「織田を侮っておったな」
「織田の軍勢だけではないか」
「浅井もおるか」
もっと言えば徳川もいる。織田の盟友達の存在は三人衆の頭から抜けていたのだ。そしてそれが仇になったのが今なのだ。
そのことを思いだ。三人衆はじくじくたる思いでまだ言うのだった。
「讃岐まで退くか」
「それしかあるまい」
「讃岐まで退いて再びじゃな」
「もう一度都に来るぞ」
「そうしようぞ」
彼等はまだ諦めていなかった。確かに敗れたがそれでもだった。何とか舟まで辿り着かんとする。その後詰は龍興だった。
彼は懸命に弓矢や槍で攻撃を加えながらだ。共にいる兵達に言うのだった。
「よいか、怯むな」
「そうしてですな」
「そのうえで」
「そうじゃ。何としても生きて帰るのじゃ」
讃岐にだ。そうするというのだ。
「そして帰ってじゃ」
「再びですか」
「織田家に対して」
「わしは諦めん」
何としてもだというのだ。
「この程度ではじゃ」
「では龍興様はまだですか」
「織田家と戦われますか」
「これで諦めませんか」
「絶対に諦めん」
これが龍興の言葉だった。彼にも意地があった。
そしてその意地からだ。彼はこうも言ったのである。
「何があろうともな」
「ですか。それではですな」
「ここで生き残り」
「そうして」
「織田信長、必ず倒す」
その意地もだ。龍興は口にした。
迫り来る浅井、そしてその織田の兵を見つつ采配を振るいながら彼はその敵意に満ちた目で述べるのである。
「そして美濃を取り戻すわ」
「龍興様のあの国を」
「是非共ですな」
「全ては織田家にしてやられた」
龍興にとっては忌まわしい思い出だった。これ以上はないまでに。
「しかしそれもじゃ」
「何があろうともですな」
「取り戻されますか」
「わしはその為に生きておる」
それが今の彼だった。
「そして戦うのじゃ」
「では何としてもですな」
「ここは生き残りましょうぞ」
「讃岐まで帰りましょうぞ」
兵達も龍興のその言葉に乗る。そのうえで。
彼等は織田家の軍勢も浅井家の軍勢も退けた。そうしてだった。
彼等はその追撃を何とか凌ぎ後詰を務めた。そのうえで。
三人衆も龍興も命からがら波止場に着いてそこから淀川を下っていった。そうして讃岐まで戻ったのだった。
信長率いる織田家の主力が都に着いたのは次の日だった。彼はまだ騒がしい都を見回してから言った。
「この度の戦はじゃな」
「はい、浅井殿です」
「あの方が来てくれました」
信長に毛利と服部が話す。
「信行様も危ういところでしたが」
「そこに来て頂きました」
「ふむ。その僧兵達も気になるが」
信長は既に彼等の話も聞いていた。そのうえでの話だった。
「まずは公方様も都も無事で何よりじゃ」
「そうですな。危ういところだったそうですが」
「浅井殿のお陰で助かりました」
「ここで猿夜叉が来なければ終わっておったわ」
信長は長政の幼名を出して言った。人をその幼名で言うのが彼の癖だがそれは長政に対してもだった。
「まことにな」
「ではこの度の勲功は浅井殿ですか」
「そうなりますか」
「家臣ではないがな」
盟友だ。それではないのだ。
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