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戦国異伝

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第九十八話 満足の裏でその三


「ですがあまりそれだけを見ていますと」
「よくないというのじゃな」
「公方様ならば天下を見るものです」
 義昭にできるかどうかは別にしての言葉だった。
「ですから。ここはです」
「どう思われているかなぞ気にせずにか」
「はい、大道を歩まれるべきです」
 やはり義昭にできるかどうかは別にしての話であるのは先と同じだ。
「そうされるべきです」
「そうか。大道か」
「それが公方様として相応しいかと」
「ではそうしよう。してじゃ」
 義昭はここで話題を変えてきた。今度の話題はというと。
「三好はまだおるな」
「あの家ですか」
「うむ。四国に逃れてもまだおるな」
「讃岐と阿波、それに淡路を押さえております」 
 明智は義昭にありのまま答えた。
「まだそれなりの力があります」
「しぶといのう」
「ですが何かきっかけがあればそれで倒せますので」
 それでだというのだ。
「織田殿にお任せするべきかと」
「そうか。では信長に言っておこう」
「それがいいかと」
「信長の禄と兵はそのまま幕府のものでもあるからのう」
 義昭はこう考えているふしがあった。将軍だからこそだ。
「ではじゃ。今日の政の話はこれで終わりじゃな」
「はい、ではまた明日」
「お話しましょう」
 幕臣達も義昭の言葉に応える。そうしてだった。
 皆義昭の前から去る。そのうえでだった。
 明智は細川にだ。己の屋敷の庭、質素な屋敷に相応しくやはり質素な庭の中においてだ。こんなことを言ったのだった。
「とりあえずは公方様には織田殿にはです」
「嫉妬なぞ抱かぬ様にですな」
「ああ申し上げましたが如何でしょうか」
「いいのではないでしょうか」
 細川もそれは一部始終見ていた。それでこう述べたのだった。
「あれで」
「そうですか。それは何よりです」
「ただ。公方様はやはり」
「器がですか」
「どうなのでしょうか」
 こう言うのである。難しい顔になり。
「小さなことにこだわられますし勘気も強いですし」
「確かに。このままではです」
「織田殿と悶着がありますな」
「少なくとも今の幕府のことをわかっておられませぬ」
 明智は眉を曇らせて述べた。
「幕府には最早禄も兵もありませぬ」
「確かに。それは」
「持っているのは織田殿です」
「しかし公方様は織田殿を幕臣と考えておられますな」
「織田殿は織田殿です」
 明智はこのことは確かに言い切った。
「それ以外の何でもありませぬ」
「そうですな。織田家は幕府に仕えてはおりませぬ」
 細川も言う。明智と共にいながら。
「幕府を支えておられます」
「そこが大事です。織田殿は幕府を支えておられるのです」
「ですが公方様は勝手に思われていますな」
「それが問題なのです」
 明智はその顔をさらに曇らせて述べる。
「織田殿、家臣の方々もですが」
「足軽の者に至るまで、ですな」
「それどころか領民の誰もです」
 まさにだ。一人としてだというのだ。
「信長公の家臣であり兵であり領民と思っていますが」
「公方様には」
「誰一人として思ってはおりません」
 そうした意味で尾張等十六の国々は信長の国なのだ。織田家の領地であり足利将軍家のものではない。これは殆どの者が思っていることだ。
 しかし義昭は違う。それが問題だった。
「公方様はそれどころか」
「織田家だけでなくですな」
「天下の全ての国がです」
 そして全ての大名がだというのだ。 
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