戦国異伝
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第九十八話 満足の裏でその二
「そうなるぞ」
「そうですか。あの時の様にですか」
「幕府は力を取り戻しますか」
「そうなるのですな」
「うむ、必ずな」
そうなるとだ。義昭は自分が確信していることを幕臣達に話した。
「そうなるぞ。よいことじゃ」
「はい、それはそうですな」
「幕府があの時の様になれば」
「それは実によいことです」
「信長がおる」
義昭は信長の名前を出した。彼にとって信長とはまさに第一の幕臣なのだ。
その彼がいるからこそだ。それが可能だというのだ。
「幕府は再びじゃ」
「力を取り戻してですな」
「そのうえで」
「また幕府の世が戻るのじゃ」
義昭はこう考えている。彼はそうなのだ。
「尊氏公も喜ばれよう」
「尊氏公ですか」
その名前を聞いてだ。幕臣達の中にいる細川がこう述べたのだった。
「確かに尊氏公は素晴しい方でした」
「そうじゃ。幕府を築かれた方じゃ」
そして義昭の祖先でもある。それで彼が敬愛しない筈がなかった。
実際に彼はこれ以上はないまでの尊敬の念を見せてだ。こうも言ったのである。
「その尊氏公以来の幕府にするぞ」
「それはよいお考えです」
細川は感情をあえて消して答えた。
「確かに」
「そうじゃな、御主もそう思うな」
「はい。そして義満公も」
「あの方も素晴しい方じゃった。是非あの頃の幕府に戻すのじゃ」
義昭は上気した感じで言う。しかし細川はここでは全く喋らなかった。
そのうえで義昭の話を聞いていた。義昭はさらに言う。
「信長がおればできる。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「信長は本当に管領にも副将軍にもならんかったのう」
このことがだ。不思議ではないといった顔で述べる義昭だった。
それでだ。こうも言ったのだった。
「無欲なのじゃな」
「無欲ですか」
義昭の今の言葉を聞いて微妙な顔になったのは明智だった。
「織田殿は無欲ですか」
「御主もそう思わぬか」
「確かに。幕府の役職を求めぬということでは」
話を限定してだ。明智は義昭に述べた。
「そうなりますな」
「そうじゃな。あれだけの功績を挙げればのう」
義昭は非常に残念そうに述べていく。
「まことに。管領でも副将軍でもな」
「望むがままというのですな」
「朝廷からの官位は貰ったな」
「はい、上総介の官位を正式に頂いております」
それでは正式に貰ったことになるな」
「そうなります」
「やはり欲がない。しかし朝廷ではその評判は上々の様じゃな」
義昭も信長の朝廷での評判は聞いていた。それはかなりいい。
「予はそれ程ではないかのう」
「公方様の朝廷での評判ですか」
「帝はわしのことをどう思っているのであろうな」
「それはわかりませぬ」
あえてこう答えた明智だった。実際にはどう思われているかは察しがついているがそれでもだ。義昭には真実を話さないことにしたのだ。
そのうえでだ。彼は義昭にこうも言った。
「ただ。あまり御気になされぬことです」
「朝廷のことはか」
「そして帝にどう思われているかも」
「それは何故じゃ?」
「確かに帝のことも朝廷のことも大事です」
このことは否定しないでそのまま述べた。
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