戦国異伝
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第九十七話 都の邸宅その八
「長宗我部元親じゃな」
「はい、瞬く間に土佐を完全に手中に収めた」
「あの者です」
「かつては姫若子といった」
この呼び名で知られている男だった。かつては。
「しかし初陣で思わぬ働きを見せてからじゃな」
「鬼若子と呼ばれる様になりましたな」
「まさに」
「今では誰も姫若子と呼ばぬ」
それが今の元親の周囲の評価だった。
「鬼若子と呼んでおるわ」
「向かうところまさに敵なしとか」
「四国も手中に収めることもできるとか言われていますな」
「少なくとも土佐は手中に収めた」
長宗我部の勢いもまた飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そのことは信長も認めていた。
それでだ。彼は弟達にこの元親についてこんなことを述べたのである。
「どうもわしの悪い癖がまた出て来た様じゃ」
「今度は長宗我部をですか」
「織田家に迎え入れられるおつもりですか」
「無論三好もじゃ」
彼等もそうするというのだ。織田家に組み入れるというのだ。
「それをよしとせぬのなら出家してもらうがな」
「それであの鬼若子もですか」
「当家に
「何でも長宗我部は紫の具足に陣笠、旗という」
彼等もまた色を見せていた。それが彼等の色だったのだ。
「ではその紫を組み入れようぞ」
「青にはせぬのですか」
「長宗我部は入れても」
「うむ、せぬ」
こうはっきり答えもする。
「色がある場合はな。そうした家はな」
「しかし盟友ではない」
「あくまで家臣ですな」
「色衆とでも言おうか」
ここが違っていた。長宗我部とこれまで信長に従った家の者達とは。
「そうしようか」
「色衆ですか」
「それになりますか」
「天下には他にも色を備えている家は多い」
織田家が警戒している武田や上杉を筆頭としてだ。
「その色は全て入れるぞ」
「織田家の中に」
「無論織田の青はそのままじゃ」
それをそのままにしてだ。他の家を入れていくというのだ。
「そうするぞ」
「そしてそのはじまりにですか」
「長宗我部家を」
「そうする。しかし色は多い」
「ですな。長宗我部の紫だけでなく」
「武田や上杉以外もありますからな」
具体的にはその三つの家の他には白の北条に水色の伊達、緑の毛利に橙の島津だ。織田家の盟友の浅井は藍、徳川は黄色である。
天下にはこれだけの色を掲げている大名達がいる。その大名達をだというのだ。
「わしの下に一つにするぞ」
「織田家の青の下に」
「そうされますか」
「それがわしの考えじゃ。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「どうしても気になるのう」
首を傾げさせながらの言葉だった。
「上杉の黒は色の黒じゃがな」
「あの津々木は黒ではありませんでしたな」
「闇でしたな」
「黒と闇は違う」
信長はまた腕を組んでいた。そのうえでだ。
己の前にいる信包と信興に対して言ったのである。こうだ。
「黒は色じゃが闇は色ではない」
「坊主の服の黒ともまた違いましたな」
「あの者の服は」
「上杉の黒は五行思想で言うと水じゃ」
明より古くから伝わる思想だ。日本にも多大な影響を与えている。陰陽道等にそれが出ている。
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