戦国異伝
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第九十七話 都の邸宅その九
「水の黒なのじゃが」
「あの闇は一体」
「何なのでしょうか」
「さてな。夜の黒とも違う」
黒といえども色々だった。上杉がその色にしている水の黒だけではない。夜の黒もまた黒だ。信長はその黒についても述べたのである。
しかし夜もまた黒であり闇ではない。そのうえでの話だった。
それは弟達も同じでだ。こう述べたのだ。
「あれだけ怪しい者は今も見ておりません」
「あの者だけです」
「すこぶるおかしな者です」
「まるであやかしです」
あやかしとさえ言うのだった。言ったのは信興だ。
そしてここでだ。信興はこうも言ったのである。
「都はあやかしが多いと言いますが」
「またその話になるか」
「勘十郎兄上は注意が必要ですな」
「そうじゃな。しかしあ奴は切れる」
しかも安定感がある。信行は信長にしてみれば一門衆の中で最も頼りになる者だ。確かに戦は不得手である。しかし政となるとこれだけ頼りになる者はない。
それでだ。信長は言うのだった。
「一度した失敗は二度はせぬ」
「では都のあやかし達もですか」
「大丈夫ですか」
「あ奴なら何の問題もない」
都を任せられるというのだ。
「例えあの津々木がまた出て来てもな」
「ですね。それでは」
「都は勘十郎兄上にお任せしましょう」
「都は一時も目を離せぬ」
「はい、何があるかわかりませぬ」
「様々な勢力もありますから」
弟達も頷く。
「だからこそ勘十郎兄上ですな」
「あの方しかおられませんか」
「そうじゃ。後は少し兵を分けるか」
「兵を?」
「兵をといいますと」
「少し考えておる。織田家も大きくなった」
織田家は確かに大きくなった。ついこの間までようやく尾張一国を統一したばかりだったが今では十六国だ。天下随一の勢力だ。
そしてその織田家についてだ。信長は言うのだ。
「十五万以上の兵を上手に動かす為にはじゃ」
「兵を分けてですか」
「それぞれ動く様にすればいいというのですか」
「うむ。そうしたことも考えておる」
信長は考えつつ述べていく。
「政についてもな。そうしていくか」
「となると万単位の兵を任せることになりますな」
「そうなりますが」
「となると当家でも任せられる者は少ないですな」
「限られております」
「その通りじゃ。そうじゃな」
万単位の兵を任せられる家臣となると確かに織田家でも少ない。信長が出せる名前もこれだけだった。
「権六に牛助に五郎左に久助か」
「確かにその四人は大丈夫ですな」
「万単位の兵も一国も任せられます」
柴田、佐久間、丹羽、滝川については弟達も異論はなかった。
「やはりその四人になりますな」
「万単位の兵を預けられるとなると」
「うむ。そしてもう二人じゃな」
ここでさらにだった。信長は加えてきた。
「猿と十兵衛になる」
「?その二人ですか」
「後は」
「そうじゃ。特に十兵衛じゃ」
幕臣である明智についてだ。信長は特に言うのだった。
「あの者は出来る。それもかなりな」
「確かに。先の戦でも政でもかなりのものを見せております」
「学識や教養も相当なものです」
「しかも礼節を知り控え目なあの気質」
「かなりの者ですな」
「あの者ならばじゃ」
万単位の兵、そして国を任せられるというのだ。
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