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戦国異伝

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第九十七話 都の邸宅その七


「そして我等だけではない」
「北近江の浅井殿ですか」
「あの方もおられますか」
「あの者は信頼できる」
 信長は長政の人柄については己の家臣達に対するのと同じく絶対の信頼を置いていた。それはただ彼が市の婿だからというだけではない。
 だからこそだ。こう言ったのである。
「すぐに動いてくれるわ」
「確かに。あの方はそういう方ですな」
「徳川殿と同じく我等のかけがえのない盟友です」
「うむ。竹千代と同じく両翼じゃ」 
 織田家のだ。それだというのだ。
「それ故に動いてくれる」
「そうしてくれますな、その時は」
「あの方が動いてくれますな」
「無論我等もすぐに動く」
 人に働かせ自分は何もしないということは信長にはなかった。まさに率先垂範の人物だ。
 それ故にだった。その時もだというのだ。
「即座にな」
「では今すぐにでもですか」
「動ける様にしておきますか」
「織田家はこれでよい」
 自分達はそれでよいというのだ。だが、だった。
 都にいるのは彼等だけではない。そこが問題だった。
「三好も朝廷には手を出さぬがな」
「しかし幕府にはですか」
「攻めてきますか」
「むしろ狙いはそこじゃ」
 幕府、そしてその将軍である義昭を狙ってくるというのだ。
「そして公方様が気付かれておられるか」
「それはどうも」
「残念ですが」
 信包も信興もだった。このことについてはだ。
 それぞれ苦々しい顔になってだ。こう答えるのだった。
「あの方は兵のことには疎い様です」
「ですから」
「急に攻められて驚かれるだろうな」
 信長もそう見ていた。義昭のことは。
 それでだ。弟達にこう答えたのだった。
「馬で進むより川を船で進んだ方がずっと速いのじゃ」
「ええ。馬は夜は休まねばなりません」
「しかし船は常に進みます」
「船の中で休むこともできます」
「動くのも楽です」
「都は馬で向かうより川を上るなり下るなりすればずっと速い」
 とにかく水運についても明るい信長だった。
「そこを衝かれればな」
「陸は我等が万全に固めていますは」
「水となると」
「まだ限度がある」
 九鬼の水軍で堺までは押さえているがだ。淡路の近辺や淀川になると、だというのだ。
「さて、その際は動くぞ」
「そして今度こそですか」
「あの三好を」
「ただ破るだけではない」
 都から追い返してそれで終わりではないというのだ。
「一気に四国まで入るぞ」
「二郎殿の水軍を使いですか」
「瀬戸内を渡りますか」
「淡路、讃岐、阿波じゃ」
 今三好が持っているその三国を攻めるというのだ。
「攻め取る。そういえば四国には」
 信長の見ているものは広い。四国といっても三好に留まらなかった。
 四国はその名前通り四つの国がある。三好はその半分の二国を治めている。ここで問題となるのは残り二国だった。その二国はというと。
「伊予に土佐じゃが」
「土佐。そういえばあの国にもですな」
「かなりの出来物がいますな」
「長宗我部じゃな」 
 すぐにだ。信長はこの名前を出した。 
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