戦国異伝
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第九十七話 都の邸宅その六
「それからじゃ。そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「三好は四国に逃げた」
さしあたっての第一の敵の話もした。戦国の世であるが故に敵のことを忘れることはできなかった。それで今彼等のことを言うのである。
「じゃがあのまま黙っているとは思えぬしな」
「やり返してきますか」
「四国から」
「三好にはまだ力がある」
最早織田家とは比べることもできなくなったがそれでもだというのだ。
「讃岐に阿波があり淡路も押さえておる」
「あの島もですか」
「瀬戸内の真ん中にある」
「洲本に城がある」
「洲本?といいますと」
「そこは」
「淡路の中で最も栄えておる場所でな」
弟達は淡路のことを詳しくなかった。それで洲本と聞いても首を捻る。信長はその弟達に対してその淡路のことも話したのである。
「淡路の中心じゃ」
「その洲本に城を築いてですか」
「そのうえで淡路を押さえていますか」
「淡路を押さえれば瀬戸内の東を押さえたも同じじゃ」
ひいてはそうなるというのだ。それだけ淡路が大事な場所だというのだ。
「海はまだあの者達のものだからのう」
「やり返してきますか」
「瀬戸内を押さえているからこそ」
「使えるものは何でも使う」
信長はこの言葉も出した。
「それが戦だからのう」
「それは三好も同じ」
「そういうことですな」
「うむ、まさにそうじゃ」
その通りだというのだった。
「あの者達もやってくるわ」
「我等に対して」
「瀬戸内を渡って」
「そうしてくる。必ずな」
「では堺ですか」
「若しくは浜からきますか」
「堺には既に二郎に話をしておる」
信長には抜かりなかった。水軍を動かす九鬼にはもう話しているというのだ。
「もう堺にはある程度の兵と船を置いてある」
「それに奉行も置く」
「堺は安泰ですか」
「そもそも守りやすくなっておる。そうは陥ちぬ」
信長は自信も見せた。
「あそこはな。それは三好も見ておるわ」
「では堺には来ることはありませぬか」
「そうそうは」
「そうじゃ。来るとすればじゃ」
堺が駄目ならだ。何処になるかというのだ。
「思い切ったことをしてくるやもな」
「思い切ったこととは」
「それは一体」
「何はともあれ備えはしておこう」
その思い切ったことが何かはだ。信長は今は実の弟達にも話さなかった。
「そちらもな」
「あの、ですから三好は何をしてくるでしょうか」
「それがわかりませぬが」
「水は海だけではない」
信長は笑ってこう返した。
「これでわかれば御主達もひとかどじゃ」
「水は海だけではない」
「といいますと」
「わしは既に言っておるぞ」
今度は思わせぶりな笑みになっての言葉である。
「もうな」
「既にですか」
「仰っているというのですか」
「そうじゃ。これでわかったか」
「・・・・・・もしや」
「そういうことでございますか」
「この岐阜から都までは一直線じゃ」
近江を通ってだ。そうなっている。
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