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戦国異伝

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第九十七話 都の邸宅その五


「どれだけ比叡山や高野山が腐ろうと多過ぎる」
「では兄上はまさか」
「そのあやかしや怨霊達も見てですか」
「わしは最初そうした者達は信じてはおらんかった」
 信長自身も言うのだった。こう。
 だがその考えが変わったとだ。彼自身が言うのだ。
「しかし勘十郎についておったあの男を見るとのう」
「あの者ですか」
「確かにあの者は」 
 津々木の話になるとだ。弟達もだった。
 顔を蒼白にさせた。そのうえで言い合うのだった。
「何か。人にないものを感じさせました」
「あれこそ異形かと」
「そうじゃ。鬼や土蜘蛛とはああいうものか」
 所謂まつろわぬ者達のことも話に出した。
「勘十郎が操られたのじゃ。ただの人間ではないぞ」
「ではやはり」
「都にもまた」
「おるし出入りしておるのであろう」
 これが信長の見るところだった。
「ああした者達もな」
「だからこそですか」
「都の結界を強める意味でも」
「やはり近江か」
 信長はその城を築くべき場所を今言った。
「あそこが都の鬼門の方じゃ。そしてじゃ」
「裏鬼門ですな」
「そこもですな」
「うむ、無論じゃ」
 北東とくれば南西もだった。信長はそうしたことも熟知していた。
 それ故にだった。弟達に今確かな声で告げたのである。その告げた言葉はこうしたものだった。
「都から見て南西となるとじゃ」
「摂津でしょうか」
 信興が言ってきた。
「そこになるでしょうか」
「そうじゃな。まさに石山の辺りじゃな」
 信長も彼の言葉に応えて言う。
「そこになるわ」
「やはりそこですか」
「もっとも近江は広いから北東とは限らぬが」
 随分広い間合いを取ってのことだった。
「それでも近江がよかろう。それと摂津じゃ」
「その二国が栄えるからですか」
「だからこそ」
「どちらも行き来がしやすく土地も肥えておる」
 信長の言う条件は揃っていた。
「しかも陸だけではなく水も使える。都にもすぐに行ける」
「しかも北東と南西」
「結界にもなりますか」
「よい条件が揃っておる。しかし」
 ここでだ。信長はあることに気付いた。
 そして少しばかり考える顔になってだ。弟達にこうも言ったのだった。
「若しもじゃ。石山に怪しい者達がおればじゃ」
「もう一つの裏鬼門にですか」
「そうした者達がいれば」
「都はさらに危うくなっていることになる」 
 比叡山、高野山が結界として役立たなくなっているだけではないというのだ。
「あの寺はとにかく門徒達が多いがのう」
「その中に怪しい輩がいなければよいですな」
「あの男の様な輩が」
「そう思う。わしもな」
 また言う信長だった。
「とにかく今は国を治めようぞ」
「はい、それに専念しましょうぞ」
「さしあたっては」
「数年後じゃな。そうした城を築くのは」
 近江、若しくは摂津にだというのである。 
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