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戦国異伝

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第九十一話 千利休その七


 さらにだった。彼等は言い合うのだった。
「色のない天下か」
「我等の闇とは違う黒」
「どちらにしろ闇ではないか」
 闇ではない、それ即ちだった。
 彼等にとっては相反するものになる。その闇の中に身体を隠しそうしてだった。彼等は闇の中において闇を語っていく。まさに闇そのものだった。
 その闇の中でだ。彼等の中央からだった。とりわけ無気味な声が言った。
「織田信長と千利休が共にいるようになった」
「ですな。そのことがそもそもです」
「非常に厄介です」
「それぞれの天下を目指す者が共にいるようになった」
「我等と相容れぬ者達が」
「読んではいた」
 中央の者がまた言ってきた。
「織田信長がここまで大きくなるのもな」
「瞬く間に大きくなりましたな」
「尾張や美濃の五国から一気に近畿の殆どを掌握しました」
「天下の五分の一以上を掌握しました」
「今や天下に最も近い者でしょう」
 信長はそうした者になったというのだ。天下人に大きく近付いたのだ。
 そしてその彼についてだ。中央の男は言うのだった。
「このまま天下を握るか」
「このままですと充分に有り得ますな」
「今で天下の五分の一以上です」
「得意の政で足場を固めたならば」
「そらに勢力を伸ばすでしょう」
「そう考えますと」
「うむ。あの者は日輪だ」
 信長はそれだとも言うのだ。
「この世をこれ以上はないまでに照らす者だ」
「光、ですな」
「それそのものですな」
「青は木だ」
 中央の者は五行思想からも語った。
「本来は陰性だがな」
「水と違い完全な陰ではありませんな」
「陽も含んでいますな」
「織田家そのものだ」
 陰と陽が共にある、即ち様々な者が集っているというのだ。
「そして青は木だけではない」
「空、ですな」
「天に広がる空ですな」
「そうだ。そしてその空には日輪がある」
 また言うのだった。
「それが織田信長だ」
「完全に我等と反する」
「そうした存在ですな」
「どの大名も同じだがな」
 それぞれの色を掲げている大名はすべからく彼等と相反する者達だというのだ。だがその中でもとりわけ信長はそうだというのである。
「しかし日輪ではない」
「その日輪ですか」
「我等を消し去る光」
「それそのものですな」
「だからこそ放ってはおけぬ」
 闇にいる者としてだ。さらに言うのだった。
「頃合いを見てだ。また仕掛けるとしよう」
「そうされますか。では問題は何をどう仕掛けるかですな」
「それが問題ですな」
「それは時と場合による」
 仕掛けるやり方は一つではない、無数にあるというのだ。
「御主等にもそれぞれ動いてもらうであろう」
「わかっています。その時はです」
「我等思う存分働かせてもらいます」
「魔界衆十二家として」
「織田家には目付けも入れた」
 中央の男はまた言った。
「あの者も使える」
「そうですな。どういう魂胆かわかりませぬが織田家に潜り込んだのです」
「それならば」
 彼等は言っていくのだった。『彼』についてもだ。
「ここにはいませぬが働いてもらいましょう」
「頃合いが来れば」
「三好との戦が終わるまで。そして政に入っては仕掛けられぬ」
 その頃合いが来ないからだというのだ。中央の男はこう言うのだった。 
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