戦国異伝
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第九十一話 千利休その八
「しかし時が来ればじゃ」
「まさにその時ですな」
「仕掛けて。落とす」
「その日輪を」
「日輪は何時までも輝くものではない」
また中央から声がする。
「やがてはその輝きを止める」
「して闇の中に沈む」
「そうなりますな」
「光が天下を治めるのではない」
中央の声はこうも言うのだった。
「天下を治めるのは闇じゃ」
「はい、まさにその通りです」
「闇しかありませぬ」
「即ち我等しか」
「覚えていよう」
中央の声がまた言う。
「我等が今のこの国の民達にどう扱われてきたか」
「忘れる筈がありませぬ」
「そのことは」
「鬼や土蜘蛛だというよりもまだ言ってくれました」
「そして刃を向けてきました」
闇の中で忌々しげに語られていく。
「我等のこの力を恐れ蔑み」
「害を及ぼしてきました」
「そうしてきました」
「だからよ。我等は今この時を待っていたのだ」
中央の声が言っていく。何かどす黒い色がその声にはあった。
そしてその声でだ。周りに言っていくのだった。
「乱世をな」
「これまで乱世は度々ありましたな」
「天智と天武の争い」
「蝦夷に関東」
「源平に南北朝」
「度々あることはありました」
「しかし」
こうした日本における戦乱が起こってもだったのだ。
「それは全て決定的なものにはなりませんでした」
「天武には気付かれましたし」
「坂上田村麻呂にも気付かれ兵を向けられました」
「俵といい九郎判官といい足利尊氏といい」
「どの我等に気付きました」
彼等のことをだ。忌々しげに言っていくのだった。
「そしてそのうえで我等の願いを封じてきました」
「しかしですね」
「そうだ。今度はだ」
中央の声が周囲に言った言葉は。
「そうはならぬ。させぬ」
「ですな。今の乱世はこれまで以上の乱世です」
「各地で戦乱が起こり続けて人が死んでおります」
「これだけ素晴しい乱世はありませぬ」
「実によい時です」
「血は流れるに限る」
乱世をだ。明らかに喜んでいる言葉だった。
「そして命も潰えるに限る」
「我等も煽っておりますし」
「より戦乱を起こしましょう」
「それ故にですな」
「織田信長。あの者をどうするか」
このこともまた課題だった。彼等にとっては。
それ故にだ。その日輪である彼をどうするかというのだった。
「我等に気付くやもな。あの男は鋭い」
「ですな。やがてはですな」
「それにあの者は陽の気の塊です」
「闇を払う者です」
「ならば」
「日輪と我等とは違う意味で色のない者」
「二人になりましたしな」
彼等と対立するという意味でだ。信長と利休は同じだった。日輪と無色、確かにその二つはそれぞれ全く違う。しかしそれでもなのだった。
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