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戦国異伝

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第九十一話 千利休その六


「紀伊には入られぬのですか」
「あの国か」
「はい、あの国には入られぬのですか」
「あの国にも入りたい。しかしじゃ」
 それでもだとだ。信長は梁田に答えた。
「あの国のことはわかっておろう」
「一向宗の国になっておりますな」
「国人達の力が強いがその国人はほぼ全て一向宗の門徒じゃ」
「それ故に。紀伊に入ろうとも」
「なびく者はおらん」
 織田家にだ。彼が国に入っただけでそうなる者はいないというのだ。
「全くな」
「そうですな。それに入れば下手をすれば」
「本願寺と衝突しかねん。だからじゃ」
「都に戻られますか」
「うむ、紀伊には入らぬ」
 また言う信長だった。
「都に戻りそのうえでじゃ」
「そこで兵を整えたうえで」
「戦の後始末を済ませたうえで岐阜に戻る」
 そうするというのだ。
「公方様に御会いせねばならんしのう」
「義昭様にもですか」
「将軍にはもうなられたな」
「はい、簡素ですが式も済ませられましたし」
「ではじゃ。公方様にもお祝いの言葉も述べねばならんしな」
「それ故に今は」
「これで戻る」
 また言う信長だった。
「しかしじゃ。三好はまだ残っておる」
「四国があの者達の本来の拠点ですし」
「讃岐や阿波からまた来るであろうな」
「それもすぐにですな」
「うむ、来るじゃろう」
 梁田も信長もだ。三好のその動きは読んでいた。そのうえでこう言うのだった。
「堺には水軍を置く」
「そして備えとするのですか」
「後は尾張や伊勢の水軍をすぐに動ける様にしておく」
「では二郎殿にお話をされますか」
「そうするとしよう」
 信長は次の戦の備えも述べてだ。そのうえでだった。
 兵を率いて都に戻る。こうして上洛からの一連の戦は終わった。 
 だがその彼等を見てだ。闇の中で彼等が話すのだった。
「気付かれたか」
「いや、まだだ」
「ふと思われただけだ」
 こう話されていた。
「如何に千利休といえどもだ」
「思っただけだな」
「そうだ。我等に気付いてはいない」
「そうか。ならいいがな」
「我等のことに気付いていないのなら」
「しかし。松永を見ていたぞ」
 闇の中の一人がこう言ったのだった。ここで。
「無意識のうちだがな」
「あの男の気配を無意識のうちに見たか」
「我等の血族の気配を」
「さもありなん。あの者も我等の一族ぞ」
「十二家の一つぞ」
 十二家、ふと出て来た言葉だった。
「それならばだな」
「千利休なら無意識のうちにあの男を見たか」
「闇を見たか」
「そもそもあの男は何故色ではない黒を目指す」
 詫び寂びについてだ。彼等は不快なものを感じていた。それは何故かというと。
「色である黒は上杉だがな」
「あの者は色でない黒を目指す」
「それがあの者の天下か」
「詫び寂びか」
 こう話すその間も不快なものを感じていた。そしてだ。 
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